課長親子と別れた後、飯島さんに誘われるまま二人で遊園地の隣りにある動物園をめぐり、再び遊園地に足を向けたころには抜けるような青空は茜色に染まっていた。
遠くに見える山影は既に、夜の帳とばりに包まれている。
ほどほどに込み合っていた園内も、だいぶ人がまばらになって閑散としていた。
あと三十分ほどで、この遊園地も閉園時間になる。
今、言わなければ。
楽しかった今日のお礼と、昨日の告白への答えを、今。
「梓さん?」
逃げたら、だめ。
今、言わなければ、きっと言えなくなってしまう。
そんな気がする。
たとえ嫌われてしまっても、嘘で欺あざむくよりはずっとマシだ。
俯きそうになる顔をグイッと上げて、足を止めた私を不思議そうに振り返る飯島さんの瞳を、真っ直ぐ見据える。
「あの、今日は、ありがとうございました。ここに連れてきてもらったおかげで、元気になりました。それに……」
飯島さんは応えることはなく、ただ静かな眼差しを向けて、私の言葉を待っている。
「それに、本当に、楽しかった……」
「俺も、楽しかったですよ。とってもね」
穏やかな声が、夕闇の中へしみ込むように溶けていく。
大きく息を吸い込み、息を止めて。
いよいよ、肝心の言葉を言おうと口を開きかけた時。私が言葉を発するよりもわずかに早く、飯島さんの声が耳に届いた。
「最後に、乗りませんか、あれに」
彼のガッチリとした骨太の指先が指示したのは、キラキラと色とりどりのイルミネーションを纏った、この遊園地のメインスポットでもある大観覧車。
「せっかくここに来たんだから、記念に。ね?」
私たちのすぐ横を、賑やかな家族連れが通りすぎる。
「……はい」
その方が良いのかもしれない。
二人きりになれる場所で、ちゃんと伝えよう。
そう思った。