自惚れていたんだ、私。
私にとって課長の存在が特別なように、奥さんがいても子供がいてもそれでも、心のどこかでは特別に思ってくれているんじゃないかって、そう自惚れていた。
その証拠に、なぜ本当のことを教えてくれなかったのかと、心のどこかで課長を責めるような気持ちがある。
自分は、課長にとってはただの部下。
それ以上でもそれ以下でもない。
それを嫌と言うほど思い知らされた。だから、こんなにショックなんだ。
「……そっか。じゃあ、婚約者候補さんは、美人さんでいいねぇ」
思ってもいない言葉が、舌の上を滑り落ちる。
「美人だけど、真理はキライ!」
「え……、どうして?」
子供らしく唇をツンと尖らす真理ちゃんの顔を、まじまじと覗き見た。
「パパが好きな人じゃないから」
課長が好きな人じゃない?
「でも、婚約者候補なんでしょ?」
「うん。でもパパが決めたんじゃなくて、おじぃちゃまが決めたの」
――おじぃちゃま?
またもや初めて耳にするブルジョワ感あふれるその単語に、目を瞬かせる。
さっきの婚約者嬢の『ですわ』にしろ今の真理ちゃんの『おじぃちゃま』にしろ、そこに漂うのは私とは縁遠いハイソな世界観。
「真理、結婚は好きな人とするのが良いと思うの。セイリャク結婚なんて、時代遅れよ。そう思わない高橋さん?」
「あ、あははは……」
確かに時代遅れだとは思うけど、人様の家庭の事情に口を出すわけにはいかない。
「そうかもねぇ……」
もう、笑ってごまかそう。