『申し訳ない。すぐに戻るので、よろしくお願いします。何かあればスマホに連絡を』と言い置き頭を下げて、課長は真理ちゃんを私たちに預けると、美女を伴い遊園地の散策に出かけた。
それにしても。
「真理ちゃんのママ、とても美人さんねぇ。高橋さん、びっくりしたよ」
まめまめしく飯島さんがオーダーを取って買ってきてくれたハンバーガーと、ポテト、オレンジジュースのメニューを、美味しそうに口に運ぶ真理ちゃんに、さりげなく話を振ってみる。
飯島さんは喫煙タイムとかで少し離れた灰皿の置かれた喫煙コーナーに行っていて、ここにはいない。
真理ちゃんはポテトをハムハムと飲み込みながら、不思議そうに小首を傾げた。
「玲子さんは、真理のママじゃないよ? パパの婚約者コーホだもん」
――え?
ママじゃなく、婚約……者コーホ?
各々の単語の意味は分かるけど、それが脳内で意味のある文章にならない。簡単に言うと、意味不明。
「真理のママは、真理を生んだ時に死んじゃったから、真理にはパパしかいないの」
ほんの、五、六歳の少女が口にするには重すぎるその事実を聞き、なんて言っていいのか分からない。
「そう……なんだ」
「うん。でね、玲子さんはパパの『ノチゾイ』さんになるよていなんだって」
後添いさん。
奥さんが亡くなっていたという事実も、現在進行形で婚約者候補がいるという事実も、私には関係のないこと。
そんなこと、分かっている。でも……。
モヤモヤと胸の奥にわだかまるこの感情を、何と呼べばいいのだろう。