東悟との再会。

 もしくは東悟と瓜二つの男との出会い。

 そのことで、自分自身がこんなにとっちらかるなんて、私は思ってもいなかった……。

 ――いい年して。アンタは、中学生かっつうの……。

 その視線。その表情。

 その動きの一つ一つに、揺れてしまう自分の姿が滑稽(こっけい)に思えて、私は大きなため息を吐き出した。

「あ、ため息~。ため息をつくたびに、幸せが逃げて行くんですってよ、梓センパイ!」

 自分のデスクで、本日のお仕事予定の工場での原寸検査の準備をしながら、私が思わず吐き出した特大のため息を目撃した美加ちゃんが、クスクスと笑いながら隣の席から顔を覗かせる。

 原寸検査とは、工場で実寸大に書いた図面を設計士立ち会いの元、検査すること。これが終わればその型紙を元に実際に材料の切断行程に入る、大事な検査でもある。

「……そうね、美加ちゃん、気を付けるわ」

 幸せか。

 幸せってなんだろう。

 なんてしみじみ考えてしまう、自分が少し悲しい。

「高橋さん、私もその原寸検査、立ち会わせてもらうから、よろしく」

「はい、わかりま……」

 は、はいっ!?

 頭上から降ってきた聞き覚えのある渋い声に、思わず硬直。

 おそるおそる視線を上げると案の定、予想通りの渋い声の主、本日着任されたばかりの新課長さんの、ニコニコ営業スマイルがあった。

「か、課長も行かれるんですか?」

 思わず、語尾が変な風に掠れてしまう。

「はい。一通り、仕事内容の把握をしておきたいので行きます」

 ああ、なんてこったい。

 これじゃ、治りきらない古傷に塩をすり込むようなものじゃないか。

 私は、暗たんたる気持ちで、心の中で特大のため息を吐き出した。