「えっと……」

 確か、名前は。

真理(まり)……ちゃん?」

「はい、谷田部真理ですっ。パパが、おセワになってます!」

 少女はあの時のように、『ペコリ』と礼儀正しくおじぎをする。

「あれ? 谷田部ってもしかして課長の谷田部さん?」

「はい、カチョウの谷田部東悟ですっ」

 珍客乱入に目を丸める飯島さんの呟きに、その子、真理ちゃんはニコニコ笑顔で大人顔負けの挨拶をした。

 ドキドキドキと、鼓動が限界点で暴走する。

 この子がいるってことは、十中八九。

「真理、一人で先に行ったら迷子になるって……」

 少女を追って歩いてきたその人、谷田部課長は、私と飯島さんに気付いてさすがに絶句した。

 そして、課長の腕に手を添わせて優雅な足取りで歩いてきた美しい女性に、視線が釘付けになる。

 おそらく何某のブランドであろう、品の良いライト・ベージュのワンピーススーツに身を包んだその人は、私たちに気付くと、自然なウェーブのかかった栗色の髪をフワリとなびかせて、課長の隣で微笑んだ。

 香水だろうか。

 風に乗って届いた甘いフローラルの香りが、鼻腔をくすぐる。

「東悟さん、この方たちは?」

 凛と澄んだやわらかい声が、凍りついてしまった私の鼓膜を震わせる。

 なんでまた、こんな所でこんな状況で鉢合わせするのか?

 宝くじも当たったことがないのに、なぜ、こんな天文学的なぶち当たり方をするのか。

 ――やっぱり、週末は呪われている。

 今度ばかりは、私はそう確信した。