恋愛感情ではないにしろ私は飯島さんが嫌いではない。だから、嘘はつきたくない。
「ねえ、高橋さん」
ちょうど赤信号で車が止まった時、黙り込んでしまった私を気づかうように飯島さんから柔らかい声がかかった。
右頬に、穏やかな視線が向けられているのを感じる。
「昨日も言ったけど、そんなに深刻にならなくても良いから。ほんの気分転換。友達と遊びに行くような、気軽な気持ちでいいんだ」
カチコチに固まっている私をリラックスさせるためなのだろう。
今までのように、年上の女性に対するような一歩引いた感じではなく、まるで気の置けない女友達に話すように飯島さんは飾らない口調で言葉を紡ぐ。
「……」
飯島さんの言うように気軽に楽しめる性格ならどんなにいいだろう。
でも、『言わなければ』と言うプレッシャーと緊張ばかりが先に立って、こうして身を強張らせているのが関の山だ。
尚も言葉もなく俯いている私に、飯島さんは淡々と言葉を重ねていく。
「正直言うとね、俺も、本当はこんな風に強引に誘うつもりじゃなかったんだ。断られても仕方がないかなって。でも、実際高橋さんの顔を見たら、誘わずにはいられなかった」