「まあ、話は後からゆっくり。まずは出かけましょう」

 クルリと踵きびすを返すと、飯島さんは助手席側のドアを開けて、『さあ、どうぞ』とばかりに私に乗るように手招きした。

「え? あ、あのっ!」

 優柔不断の重い(よろい)を必死で脱ぎ捨てて、意を決して口を開いたのに。

『お気持ちはとても嬉しいんですけど、実は好きな人がいるんです。だから、お付き合いはできません』

 何度も脳内シミュレーションした肝心のその言葉は、寸前の所で飯島さんの行動で遮られてしまった。

 それどころか、このままじゃデートコースまっしぐら。

 ――や、やばい。頑張れ私!

「飯島さん、あ、あのですね」

「はいどうぞ」

 とっ散らかった脳みその指令で、舌が上手く回るわけもなく。

「あ、あの、実はっ――」

 パパーッ! っと、背後で突然上がった他の車のクラクションの音に、口にしかけた言葉はまたもや遮られて。

「あ、ほら、他の車の邪魔になってしまうから、急いで」

 お昼を前に混雑がピークに達しつつあるコンビニの駐車場に、このまま飯島さんの大きな車を停めておくわけにもいかず。

 ハッと気が付けば、私は走り出した飯島さんの車の助手席に、ちんまりと借りてきた猫のように鎮座していた。