「よしっ!」

 決意を込めて、飯島さんへのお礼にとコンビニで買ったおせんべいの詰め合わせの入った紙袋の取っ手を、ギュッと握りしめる。

 そして、いよいよジャスト十一時。

 一台の大きな四輪駆動車がすうっと駐車場にすべり込んできて、緊張の極地で身を強張らせて立っている私のすぐ側で停車した。

濃紺と灰色のツートンカラーの、大きなボディ。その運転席からヒラリと身軽に降りてきたのは、飯島さんだった。

 昨日のスーツとも、いつもの現場作業着とも違う、初めて見る普段着の飯島さんの姿に、挨拶あいさつをするのも忘れて見入ってしまう。

 シンプルなブルー系のチェック柄のシャツに、ブルー・ジーンズ。足元は、黒いスニーカー。

 ふと、東悟との初デートの時を思い出してしまい、ドキンと鼓動が高鳴った。

「おはようございます」

 飾らないファッションと同じに飾らない笑顔を向けられて、私はハッとして頭を下げた。

「あ、おはようございますっ」

 ――やだ、どうかしてる。

 こんな時に、東悟とのことを思い出すなんて。

 飯島さんに、失礼も良いところだ。

 そんな私の動揺など知るはずもない飯島さんは、笑顔で荷物を手渡してくれる。