思わず乾いた笑いが込み上げる。
こんなだらしのない姿を見たら、飯島さんだって私とデートしたいなんて思わないだろうに。
そこまで考えを巡らせて脳裏に甦ったのは、昨夜の飯島さんの真っ直ぐな瞳。
私を好きだと、言ってくれた人。
『初めて会った時から惚れていたのだと』、陰りのない瞳で言い切った人。
正直な気持ちを言えば、あの告白は、嬉しかった。
飯島さんと初めて清栄建設の現場で会ったのは、確か三年前。
三年という時の流れの中で、こんな私を、ずっと見ていてくれた人が居る。
好きだと、言ってくれる人が居る。
それは男女の情愛とは別にしても、とても嬉しいことだった。
でも、東悟への想いを断ち切れない今の私では、飯島さんでなくても誰か他の男性と付き合うなんてことは考えられない。
「なんで、はっきり断らなかったんだろう……」
先延ばしにしたところで出る答えは決まっているというのに。今更ながら、自分の優柔不断さが恨めしい。
大きなため息を一つ吐き出し、まだ夢の余波で濡れている頬を手の甲でごしごしと拭って。
重い頭と気怠い体に鞭打ってなんとか立ち上がり、テーブルの上を片付けにかかったその時。
プルルル、プルルル――と、スマートフォンの着信音が上がった。
反射的に視線を走らせたた壁掛け時計の針は、午前九時半。
今日は土曜日で、会社は休み。
美加ちゃん、だろうか?
昨夜のパーティの状況が聞きたくて、かけてきたのかもしれない。でも、『もしかしたら課長からかも』と言う可能性も拭いきれず、ドキドキと鼓動が早まる。
床に放り出されている黒いハンドバックからスマートフォンを取り出し、おそるおそる画面に視線を落とした。
「あれ……?」