やっとどうにか自分を保っているのに、どうしてこの人はこんなことをするのだろう?
「も、申し訳ありませんが、私も一応嫁入り前の女ですので、か、課長と言えど、こんな深夜に男性を部屋にお上げするのはちょっと……」
「別に、気にしないから。せっかくだからビールと、つまみも買おうか」
って、人の話を聞け、この上司っ!
まるで散歩を嫌がる飼い犬のごとく。
私のカゴの端をグイグイと引っ張っていく課長に引きずられるように、店内奥へと歩いて行く。
ちょっ、ちょっ、ちょっとっ!
「課長は気にしなくても、私は気にするんですっ。隣近所も世間一般の皆様も天国の父も田舎の母も、みんなみんな絶対めいいっぱい、気にしますっ!」
ひょうひょうと飲み物コーナーでビールを物色する課長に向かい一気に胸の内をまくし立てるも、当のご本人様はどこ吹く風でビールを数本カゴに入れ、次のおつまみコーナーへと私を引きずっていく。
これは、もしや。
まさかとは思うけど。
「か、課長……。もしかして、本当に、酔っぱらっているんですか?」
柿ピーとイカの燻製をカゴに放り込んでいる御仁の横顔を見上げて恐る恐る質問を投げたら、ボソっと低い声が降ってきた。
「酔ってない」
確かに足取りもしっかりしてるし、顔色だって赤くも青くもなくいつもと同じ。
でも、昔からこの人は酔っても顔に出ない人だった。
いつもの営業スマイルが欠片も浮かんでないし、第一、おつまみを買って、『私の部屋で二人っきりで酒盛りしよう』なんてこの行動自体が変だ。
変すぎる。
常軌を逸している。