恐る恐る体をねじって後ろに佇む背の高い人物へと視線を巡らせ、目に映ったその人の顔を呆然と見つめた。

 少し憮然とした表情は、どこか怒っているようにも見える。

 自分で頭をかき回したのか、きちんとセットされていた前髪がパラパラと額に落ちかかっていた。

 なぜそんな表情をしているかよりも、なぜその人がここに、このコンビニに居るのかが理解できない。

 驚きと、困惑。

 そして、本能で感じる危険信号。

 色々なものを内包した、それでもやはり驚きの成分を一番多く含んだ掠れた声が、口から押し出される。

「課長……?」

 谷田部課長だった。

 タクシーで、自分のアパートに帰った筈の上司様の姿が、なぜか目の前にある。

 理解しがたい状況の中で、はっと我に返った私は慌てて外へ、先刻タクシーが停まっていた場所に視線を投げた。

 案の定、そこにタクシーの姿はない。課長が返してしまったのだろう。

――どうして?

 疑問を声に変える前に、課長の方が先に口を開いた。

「俺もかなり空きっ腹なんだ。どうせ帰っても何もないから、晩飯、相伴(しょうばん)させてくれないか?」

 し、相伴(しょうばん)って、今から家にきて一緒に食べるってこと!?

「え、で、でも、家にも大したものは無いですからっ」

 冗談じゃない。

 今だっていっぱいいっぱいなのに、この上アパートに二人きりになんてなったら私、自分の行動に自信なんか持てないっ。