二人だけを乗せたエレベーターが、夢の世界から現実へと降りていく。
週末が明けて月曜日が来て、また慌ただしい毎日が繰り返される。
それは退屈で、とても幸せなこと。
それ以上を望んだら、きっとバチがあたってしまう。
ぼんやりと見つめていたまだ消えきらない町の灯が、不意にぐにゃりと歪んで滲んでいく。
――ばか、泣くな。
こんな所で、泣くんじゃない。
あんたが泣くことなんて、何もない。
頬を伝い落ちるモノを悟られまいと、階下の景色を見ているふりで表情を隠したのに。ふっと、頬に、温もりが触れた。
長くて繊細な指先が、濡れた頬を優しく拭っていく。
「梓……」
耳元で、静かなテノールが甘い囁きを落とす。
――だめだ、だめ。流されたら、だめ。
そんな微かな抵抗は力強い腕に引き寄せられ、その懐に抱え込まれて、あまりにも脆く崩れさった。
真摯な黒い瞳に、視線を絡め取られて。
ためらうように、そっと触れた唇が、徐々に熱を帯びて深みにはまっていく。