ニコリと微笑みを湛えたその表情からは、課長の心の中を伺い知ることはできない。
――今の話、聞かれてしまったの!?
すうっと首筋の当たりの血の気が一気に引いて、思わず背筋に震えが走った。
「飯島さん申し訳ないですが、時間も遅いことですし、もうそろそろお開きにしませんか?」
やんわりと話の終了を提案する課長に、飯島さんは挑戦的にすら見える真剣なまなざしを投げつける。
「谷田部さん、今の俺の話、聞いてましたよね?」
私からは死角になっていて気付かなかったけど、飯島さんからは課長が来るのが見えていたのだろう。
「ええ、まあ、『初めて会った時から』あたりからは、聞こえていましたが……」
語尾を濁す課長に、飯島さんはあくまで食い下がる。
「谷田部さんは、どう思います? 俺と高橋さんが付き合うことを、反対されますか?」
見事なまでに、直球で質問をぶつけてくる飯島さんに向けられる課長の眼差しはなぜか穏やかで、私の心の中にモヤモヤとしたものを増殖させていく。
「私は、部下のプライベートなことまでは関知しませんので、それはご当人どうしの問題でしょう。別段、私がどうこう言う筋合いのものではありませんよ」
感情を排したような静かなトーンのその言葉が、一瞬にして、私の全身に冷水を浴びせかけた。