平気で嘘をつける性分ではないと思う。
でも、嘘も方便。
ここはなんとか嘘をつき通さなければ。
フリーズ状態の脳みそをフル回転させて、それだけを念頭に置く。
第三者に『谷田部課長との関係』を問われれば、それはもちろん。
「上司と部下の関係です……けど?」
若干、語尾が変なふうに掠れたけど、なんとか少しばかり口の端を上げてそれだけは言うことに成功した。
でも飯島さんはまだ納得の行かない様子で、「本当に、それだけですか?」と問いかけてくる。
それだけじゃないけど、それは言えないんです。などと本音が言えるわけもなく、私は更に強張る口の端を上げて嘘の言い訳を続けた。
「ええ、もちろん、それだけの関係ですよ。いやだなぁ、いきなり真剣な顔で何を言い出すのかと思ったら、飯島さんったら。谷田部課長は結婚されていて、可愛いお嬢さんもいるんですよー」
内心の動揺を悟られまいとおどけて言う私の言葉に、飯島さんは心底ホッとしたように大きく息を吐き出した。
そこでチクリと感じる罪悪感。
やっぱり、嘘は後味が悪い。
それに、一つついた嘘は又次の嘘を呼び、雪だるま式に増えていくのが常道。そんな罠に足を突っ込みたくはないけれど。