上着のポケットから、スマートフォンを取り出して着信窓に視線を走らせた課長の表情が、フッとなごむ。
「ちょっと、失礼」
そう飯島さんに断ってスッと席を立った課長は、お酒が入っているとは思えない確かな足取りでラウンジの外に歩いて行く。
あれはたぶん実家からの電話だとそう思ったその瞬間、胸の奥に、例えようがない痛みが走った。
扉の向こう側に見えなくなった課長の姿を辿るように、ぼんやりと視線を彷徨わせていたら、不意に、飯島さんが口を開いた。
「高橋さん、一つだけ、聞いても良いですか?」
「はい?」
さっきまでとは明らかに違う、真剣さがにじみ出るような低いトーンの声音にドキリとして飯島さんに視線を移せば、少し明るい色合いの真っ直ぐな瞳に視線が捕まり、変な風に鼓動が乱れだす。
「飯島さん?」
「高橋さん、谷田部さんとは、どういう関係なんですか?」
思わず息を飲むその私の息の根を止めるようなとんでもない質問を、飯島さんは静かに放った。
『谷田部さんとは、どういう関係なんですか?』
エコー増幅しながら、そのフレーズが脳内を何往復かした後やっと、私はその質問の重大かつ深刻さに気付いて身を強張らせた。
「高橋さん、答えてくれますか?」
――ええっ!?
たぶん、こう言う状況を称して、 晴天の霹靂。
または、絶体絶命と言うのだと思う。