フランス語? イタリア語?
わ、分からない……。
解読不能なメニューから目をそらして顔を上げれば、何を注文するのか期待いっぱいで待っている、飯島さんのつぶらな瞳に視線が捕まった。
もう、笑うしかない。
だいぶ乾いた笑いだけど、笑わないよりはマシなはず。
「か、課長、お任せしますっ」
ずいっと、左隣に座る課長に責任転嫁してメニューを捧げ渡す。
無言でメニューを受け取った課長はパラパラとページをめくり、テーブルに回ってきたウェイターさんに何やら注文をしていた。
――ああやっぱり、私にはファミリーレストランの、ドリンクバーが性にあってる。
ほどなくして、飯島さんのテーブルには黒ビールと枝豆と言う季節を先取りしたようなメニューが置かれた。
私と課長のテーブルに置かれたのは、チーズ類の乗ったおつまみの皿と、赤ワイン。
トンと、自分のテーブルに赤ワインのグラスが置かれて始めて、私は自分の置かれた状況にハッと気付いた。
し、しまった!
ウーロン茶かアイスティを頼むんだった!
目の前にワイングラスが置かれるまで、『そのこと』に思い至らなかった自分のあまりの呑気さに、心の中で盛大な舌打ちをする。
この状態でさすがに『飲めません』とは、言えるはずがない。