課長と連れだった私も、何人かの顔見知りの監督さんや業者の人たちと挨拶を交わしながら、隙間を縫って少しばかり料理を口に運ぶ。

 でもこういう場所って、せっかくのご馳走も食べた気がしない。

 そもそも誰に会うか分からない緊張の連続で、料理を味わっている余裕なんてない。

 そんな私の傍らには如才なく挨拶を交わし名刺交換に励む課長と、なぜか色黒の御仁がずっとくっ付いていた。

 色黒の御仁とは、言わずと知れた飯島耕太郎さんだ。

「しかし、今日の高橋さんは、綺麗だなぁ。本当、惚れ直しそうです」

「飯島さん、もしかして酔ってますか?」

 なぜか、コバンザメのごとく私の傍らにくっ付いている飯島さんを見上げて問えば、実に爽やかな笑顔が向けられる。

 本音を言えば、側にいられるとボロがでそうで困るんだけど、相手は今日の主宰者側の監督さん。

 むげに冷たい態度を取るわけにもいかず、にこやかな、でも多分引きつっているだろう笑顔をどうにか浮かべた。

「俺、酒にはめっぽう強いので、ちょっとやそっとじゃ酔いませんよ。せっかく色々な酒が揃っているから、飲み比べしてみますか?」

 いつの間にか一人称が『私』から『俺』になってるし。

 緊張しっぱなしの私とは違い、飯島さんはリラックスモードだ。