どんなに時間ときが流れても、忘れられない人がいる。

 消そうとしても、消えない想いがある。

 頬に触れる、大きな手のひら。
 心に染みいる優しい声。

 甘いキスをくれた、その唇も。
 私の体の稜線をたどる、長くて繊細な指先も。
 私を包みこんでくれる、その温もりも。

 まるで、細胞の一つ一つに刻み込まれたように消えない記憶は、今も私の中で埋火うずみびのようにくすぶり続けている。

 もしも、人生でただ一度出会う『運命の恋』と言うものがあるのなら、これは私の運命の恋。

 そして、たぶん最初で最後の恋。

 忘れられない恋心を胸の底に抱いたまま、

 私の運命は、今、大きく動き出す――。