#2

「さて、おとぎを見送って、柚仁さんを見送って、次は何しよっかな」
部屋には私以外誰もいない。おとぎは店へ仕事に。柚仁さんは仕事へ・・・・・・。まぁ、柚仁さんは仕事の後は自宅に帰るのだろうけど。
「なんでもいいけどさ、流石にだれもいないと、寂しいわねぇ」
先ず、円を描いて、その中央に、私の血一滴を滴らせて、
と。
「わんちゃんを1頭と、猫1匹と、豊かに暮らしたい。そして、たくさんの愛を注ぎたい」
あっという間に、円の中心が発光し、2分後には茶色い中小型犬と、雪のように真っ白い体毛の猫が、それぞれ出現した。
「可愛いわんちゃんに猫ちゃんね。わんちゃん、今日からあなたの名前は元気いっぱいで笑顔が輝いているからサンシャイン、ねこちゃんの名前は、雪のように真っ白だからスノウね。私の名前は夕凪のまど。妹に夕凪おとぎが居るわ。それから、私の恋人で、柚仁さんが居るんだけど、彼はいつか近い内にまたうちに来てくれるでしょう。その時は再度、あなたたちに紹介するわね。サンシャインにスノウ、これから宜しくね」
猫と犬、それぞれ撫でると、猫のスノウはそのまま歩き去っていき、犬のサンシャインは遊んでほしげに目をきらきらさせて私を見上げている。犬と猫を一緒に飼うと、犬猫それぞれ対になるリアクションや行動をとるのが不思議で、印象的だ。
更に私は、犬猫それぞれのケージを魔力を使ってペットショップに犬猫それぞれの個数分のケージとトイレを書いた注文書を送った。
「さて、届くまでに新刊の続きを書こうかな」
ひとりごちながら、既に椅子を占領している猫のスノウをいったんだっこして座った。
犬のサンシャインは私の足下でぴょんぴょこ跳ねている。
「ごめんね、サンシャイン、お散歩グッズがまだ届いてないの。届いたら、一緒にお散歩しましょうね」
「ワンッ」
サンシャインは元気良く返してくれた。
「ふふ、えらいわね」


犬用のお散歩グッズが届いたのは、夕方だった。鋼鉄のATMに代金を振り込んでから、家にもどり、散歩グッズであるリードをサンシャインに装着させて、いざ出発。
犬と散歩に出かけている間は、柚仁さんのことばかり考えてしまう。
なかなか会えない人だから、たとえ中距離でも、朝まで一緒に居られることがどれだけ貴重な時間で、幸せなことと分かっていてもやっぱり、ーーそれでもやっぱり、会いたいという気持ちがあふれ出てくる。
「柚仁さん、そろそろ仕事を終えて帰る頃だろうなぁ。ーーね、サンシャインもそう思わない?」
「くぅん?」
「人間の言葉で聴かれてもわかんないよね、ごめんね、サンシャイン」

サンシャインとの散歩を終えると、私はサンシャインをケージに帰し、すぐに洗面所で手を洗い、うがいは2~3回済ませた。
洗面所から、サンシャインが待っている私の部屋へ直行。
「お外はもうすっかり暗くなっちゃったね、サンシャイン」
「わん・・・」
声色からして、まだ散歩してたかったのかな。
「ごめんね、今度、もう少し距離を伸ばして散歩しようね」
「わん!!」
「おっ、元気の良い声だ」
ひとしきりサンシャインを抱っこして、背中を優しくそっと撫でてやると、サンシャインは自ら私の膝の上から降りて、自分からケージに入って、そのまま寝てしまった。
サンシャインの可愛い寝顔を数秒間だけ見て癒されると、私は椅子をくるんと回転させ、パソコンの画面と向き合う。
さて、どこまで書いたっけ?
ーーん? 携帯が鳴ってる? 誰だろ。柚仁さんだったら良いなぁ。
既に充電完了したスマホの電話画面で下部の電話にでる/でないの選択肢を、スワイプして、耳に当てる。
「もしもし・・・・・・? あらぁ、本当に? ううん、嬉しい! じゃあ、引っ越し作業、お手伝いしましょうか?
私なんかで良ければ」
あふれ出る"会いたい"気持ちが伝わったのか、発信者は柚仁さんだった。
どうやらこの山茶花荘の16階の1604号室に引っ越してくるらしい。
ちなみに、この山茶花荘は22階立てで、1階と4階の二カ所の出入り口前にコーヒーサーバーと紅茶サーバーがある。
何てリッチなのかしら♪
「それで、お引っ越し日は? え、今日? じゃあ、今まで引っ越してくる話は隠してたってこと?ーーいえ、ただ驚いただけよ」
柚仁さん曰く、今日の20時には山茶花荘に着くらしい。
「じゃあ、またあとで」
そこで通話を終了した。
「さて、今度こそ続きを書くぞ。ーーて、スノウ!行つ野間に膝の上に乗ってたのあなたは」
「まぁご」
「まぁご、じゃないわよ! まぁ、キーボードの上に乗っかられるよりマシか」
 優しく、スノウの背中や頭を撫でてやると、ふあぁとあくびをして、すぐに膝の上から降りて行った。
「まったく、猫ってミステリアスね」
やっとの思いで新刊の続きの執筆時間を得られた時には19時を回っていた。
あと60分もすれば柚仁さんに会える! 「今日も、遅くまで頑張っているね、お疲れさま。はい、差し入れのハンバーグ弁当とお茶だよ」とか、言われたり、本当に差し入れにハンバーグ弁当を頂ければ、もう最高じゃないの。
書かなきゃ!


新刊を何とか書き終えた時には、壁掛け時計が19:40を示していた。
「そろそろお部屋掃除しなきゃ」
私はクローゼットから掃除機とちりとちを取り出した。
家の中をひととおり掃除し終え、最後に魔力でモップを操って仕上げて完了。
掃除の次は手洗いとうがいを入念にして、冷蔵庫からタマネギとパプリカと生ハムを取り出し、調理する。
パプリカとタマネギと生ハムのマリネを完成させると、次はお茶の量を確認。ちょっとしか減っていないので、買い足しに外出する必要はなさそうかな。
平皿によそったマリネにラップをふわりとかけて、冷蔵庫に入れて保存する。

さて、次は何をしよう?
とりあえず、手洗いするか。
手洗いを終えた時、インターホンが鳴った。
柚仁さんかなぁ♪
胸を高鳴らせ、いざモニターの向こうに映る人物を見て、私は玄関口へ急ぐ。