七月十七日。
 つつじ霊園と呼ばれるその場所には、青々とした灌木が茂っている。
 これからひと月もすれば、彼岸花が見頃を迎えるということは秀に聞いた。

 水田や墓所の周りに彼岸花を植えるのは、彼の植物に毒があって、その毒でモグラやねずみから稲や土葬した死体を守るためだと言われている。
 だから火葬が主流となった今でも、その名残で墓所に彼岸花が植えられているところは少なくない。

 すっきりとした夏晴れだった。空に一本、白い絵の具を引っ張ったみたいな飛行機雲が浮いていた。
 お盆の時期ということもあって、お墓参りにきている人は多い。だけど墓所という場所は、どんなに人がいても静かなのだ。

 遠くで鳴いているはずの蝉の声が、やけに大きく響いている。
 汗の滲んだ額をハンカチで拭いながら、私は一つの墓石の前で立ち止まった。
 まだ新しい墓石には「大神」と彫られていた。

「……仏花は、似合わないと思ったから」

 誰にともなく言い訳しながら、私は小さめのひまわりを花立てにさした。サンスポット、という品種らしい。
 ひまわりが好きだったのかどうか、今となってはもうわからないけれど、菊よりは似合っている気がする。

 目を閉じて、手を合わせてみたものの、実感は湧かなかった。
 この無骨な墓石の下に友人が眠っている。わずか十七歳の人生だった。

 私が目を覚ましたときには、もう高校二年の冬で、彼女は灰になっていた。
 私と出かけた、ある夏の日に、トラックにはねられて死んだそうだ。

「……未だに、信じられないよ」

 私はぽつりとつぶやく。

 大神伊織が死んで、もう一年が経とうとしている。