♪side:直哉

幸いにも、自分の務めている会社は必ず定時上がりができる会社だった。結局昼休憩の終わりからずっと今まで翔一とは一言も話さなかった。話しかけられなかった。十七時ちょっと過ぎに退勤し、帰る支度をしながら翔一に話しかける。
「なぁ、翔一」
「うん?どした?」
「今日さ、お前のアパート、行っていいか?」
「は?なんで?」
「いや、別に特にこれといった理由はないけどさ」
「なんだよ、理由くらいあるんだろ。お前がそういうテンションの時ってなんか隠してる時だよな」
「んだよ、バレてんのか」
「そういうこと。だから早くうちに来たい理由くらい言えよ」
「その、理由さ。お前の部屋行ってから言うのじゃダメか?」
「あ、あぁ、いいけど」
「お、サンキュ。じゃあ決まりだな。さっさと帰るぜ。どっかで飯でも食ってくか?」
「ちょっと待てって、そんな急ぐ必要ねぇだろ」
「いや、なんだかんだお前の部屋行くの久しぶりだからさ。ちょっとテンション上がっちまって」
「んだそれ。まぁいいや。飯なぁ、どこ行くかな。直哉は何食いたい?」
「パスタとかかな」
「は?パスタ?オシャレか」
「別にいいだろ、最近食べてなくてさ。急に食べたくなっちまったんだよ」
「パスタなぁ、じゃあ神田でも行くか」
「なんで神田?」
「あぁ、大学の頃からたまに行ってる喫茶店があってさ。そこのナポリタンが美味くて量も多いし安いしで好きなんだよ」
「翔一の方がオシャレかよ。なんだよ行きつけの喫茶店って」
「まぁ行ってみりゃわかるよ、多分お前も気に入る店だと思うから」
そう言われて、一気に興味が湧いた。この翔一を惚れさせる店があるなんて。
「なんて名前の店なん?」
「さぼぅる」
「さぼる?」
「違ぇよ、さぼぅる」
「聞いたことないな」
「だからこれから連れてくって。帰る支度出来てんなら行くぞ」
「案内よろしく」
「あいよ」