♪side:翔一
席に戻って煙草に火をつけた。なんだか一気に疲れた気がした。
「すみませんご迷惑をおかけしてしまって」
「いいのよ、酔ったお客さんの相手はもう慣れっこだもの」
「その、バーテンさんは……」
「私は和宏。桜田和宏っていうの。名前言ってなかったかしらね」
「桜田さんの昔の話って、聞けたりしませんか……?」
「さっきの話の続き?」
「えぇ、すみません。プライベートに立ち入った事だとは分かってますが、どんな人生だったのかとちょっと気になってしまって」
「ちょっと長くなるかもしれないわ。もし聞くなら、タクシーキャンセルするけどどうする?」
「あ、それなら大丈夫です。すみません」
「あらそう?それならもしよかったらまた来てちょうだい。その時にゆっくり話しましょ」
「分かりました。また、必ず来ます」
「今日はありがとう。久しぶりにいつもより楽しい夜だったわ」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「とりあえず今日のお会計、これね」
伝票に書いてある金額を支払って、爆睡している直哉を起こした。
「おい、タクシー来たから起きろって。帰るぞ」
「起きてるってば……ちょっと待って……」
「起きてねぇだろ馬鹿。ほら、また来るからとりあえず今日は帰って寝ろって」
「分かったごめんって。桜田さんもありがとうね」
「また来てね。待ってるわ」
店の重い扉が閉まった。フラフラの直哉をタクシーの後部座席に押し込みながら、俺も乗り込んだ。外の熱気は少し不快だった。
「どこまで?」
「新宿三丁目のスカイウィンド新宿ってアパート分かりますか?」
「あのセブンイレブンの近くの所ね」
「そうです。お願いします」
「あいよ」
そういえばあの店に入ってから時計を見ていなかった。タクシーのメーターの横に表示された時計はちょうど日付を超える頃だった。楽しい時間は過ぎるのが早いと言うが、まさかこんなにも早いとは。
「若い兄ちゃんの方、大丈夫かい?」
「えぇ。部下なんですが、酒が弱くて。今日も潰れてしまって」
「そりゃいかんなぁ。まぁでも、部下の介抱も上司の仕事って言うのかね」
「部下っていうか、こいつは同僚ですが、なんとなくほっとけない奴なんですよ」
「親友ってやつなのかね。そういう関係は大事にした方がいいよ、あんた」
「もちろん分かってます」
「分かってなきゃタクシーで一緒に帰ろうなんて思わねぇわな」
初老の気さくな運転手がラジオの音声よりも大きい声で笑った。とりとめも無い会話が続き、すぐにタクシーは俺のアパート前に着いた。タクシー料金を払い、直哉を無理やり降ろして肩に担いだ。目を覚まさせて家に帰らせるのは諦めて、ひとまず俺の部屋へ連れて帰ることにした。
席に戻って煙草に火をつけた。なんだか一気に疲れた気がした。
「すみませんご迷惑をおかけしてしまって」
「いいのよ、酔ったお客さんの相手はもう慣れっこだもの」
「その、バーテンさんは……」
「私は和宏。桜田和宏っていうの。名前言ってなかったかしらね」
「桜田さんの昔の話って、聞けたりしませんか……?」
「さっきの話の続き?」
「えぇ、すみません。プライベートに立ち入った事だとは分かってますが、どんな人生だったのかとちょっと気になってしまって」
「ちょっと長くなるかもしれないわ。もし聞くなら、タクシーキャンセルするけどどうする?」
「あ、それなら大丈夫です。すみません」
「あらそう?それならもしよかったらまた来てちょうだい。その時にゆっくり話しましょ」
「分かりました。また、必ず来ます」
「今日はありがとう。久しぶりにいつもより楽しい夜だったわ」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「とりあえず今日のお会計、これね」
伝票に書いてある金額を支払って、爆睡している直哉を起こした。
「おい、タクシー来たから起きろって。帰るぞ」
「起きてるってば……ちょっと待って……」
「起きてねぇだろ馬鹿。ほら、また来るからとりあえず今日は帰って寝ろって」
「分かったごめんって。桜田さんもありがとうね」
「また来てね。待ってるわ」
店の重い扉が閉まった。フラフラの直哉をタクシーの後部座席に押し込みながら、俺も乗り込んだ。外の熱気は少し不快だった。
「どこまで?」
「新宿三丁目のスカイウィンド新宿ってアパート分かりますか?」
「あのセブンイレブンの近くの所ね」
「そうです。お願いします」
「あいよ」
そういえばあの店に入ってから時計を見ていなかった。タクシーのメーターの横に表示された時計はちょうど日付を超える頃だった。楽しい時間は過ぎるのが早いと言うが、まさかこんなにも早いとは。
「若い兄ちゃんの方、大丈夫かい?」
「えぇ。部下なんですが、酒が弱くて。今日も潰れてしまって」
「そりゃいかんなぁ。まぁでも、部下の介抱も上司の仕事って言うのかね」
「部下っていうか、こいつは同僚ですが、なんとなくほっとけない奴なんですよ」
「親友ってやつなのかね。そういう関係は大事にした方がいいよ、あんた」
「もちろん分かってます」
「分かってなきゃタクシーで一緒に帰ろうなんて思わねぇわな」
初老の気さくな運転手がラジオの音声よりも大きい声で笑った。とりとめも無い会話が続き、すぐにタクシーは俺のアパート前に着いた。タクシー料金を払い、直哉を無理やり降ろして肩に担いだ。目を覚まさせて家に帰らせるのは諦めて、ひとまず俺の部屋へ連れて帰ることにした。