♪side:直哉
予想通り、翔一は思い切り戸惑っていた。こういう人に会ったり話したりした事は無かったんだろうなとは思っていたけど、どうやら正解だったようだ。レモンサワーを飲む俺の横で、調子に乗ったのか空気に流されたのか、一番高いウイスキーを注文していた。翔一が狼狽えたり焦ったりしている姿をほとんど見ないので、新鮮な気分だった。
「灰皿、借りていいですか」
「あら、翔一さんも吸うのね。灰皿ならそこのカウンターの隅の方に置いてあるの使って」
「ありがとうございます」
「それにしても、喫煙者には肩身の狭い世の中になったわねぇ」
「段々と世間の隅に追いやられてる感覚に陥ってます」
「直哉ちゃんも、大変でしょ」
「まぁね、俺は電子タバコだから翔一よりはまだマシかもしれないけど」
「最近のカラオケの喫煙室とか、電子タバコ専用室しか無いのな。あれすげぇ不公平だと思う」
「あれめっちゃ助かってる」
「直哉ちゃんもなかなか大変じゃないの?最近電子タバコと紙タバコ吸い分けてるでしょ」
「あ、ちょっとそれは……」
「あらごめんなさい、同僚さんには紙タバコ吸ってること隠してた?」
「え?お前最近紙タバコ吸ってたっけ」
「いや、まぁ、たまにな」
「別に隠すことじゃないだろ。俺の前でもたまに吸ってたくせに」
「そうなんだけどな、なんか気になってな」
「そのなんか気になるの『なんか』が何か俺が一番気になるっての」
「後ろめたいわけじゃないんだけどな」
「後ろめたい事だったら締め上げて吐かせるぞ」
「あら、怖い同僚さんね。ロクでもない上司と、それに逆らえない部下って感じかしら」
「上司と部下っていうか、なんて言うんですか、本当にただの同僚って感じですよ」
翔一の言葉が少しだけ胸に針のように刺さった気がした。ただの同僚。この場を誤魔化すための言葉だったとしても、「ただの」なんて付けなくてもよかったんじゃないの。とか思いながら、メンヘラみたいな考えになった自分に少し呆れた。別に翔一がなんて言おうが俺達がお互いを想っているのは変わらないのに、一言ひとことに一喜一憂してしまう癖を本気でそろそろ治したいとは思っている。
「翔一さん、お酒飲むペース早いわね。そんなんじゃ朝までには潰れちゃうわよ」
「え?朝まで俺達ここにいる予定なんですか?」
「直哉ちゃんはいつも明け方までいるから今日もそうなのかと思ってたけど」
「お前……」
気まずそうに苦笑いを浮かべてながら頭を高速回転させて言い訳を考える。翔一を連れてきた時の反応を見たかっただけなのに、とんでもない墓穴を掘った。
明け方まで度数の低い酒をゆっくり飲んで、少しだけ寝てそのまま二日酔いみたいな状況で仕事に行ったこともある。眠気と気持ち悪さが合わさって、とんでもない顔で出社したこともある。我ながらとても馬鹿らしいと思う。
予想通り、翔一は思い切り戸惑っていた。こういう人に会ったり話したりした事は無かったんだろうなとは思っていたけど、どうやら正解だったようだ。レモンサワーを飲む俺の横で、調子に乗ったのか空気に流されたのか、一番高いウイスキーを注文していた。翔一が狼狽えたり焦ったりしている姿をほとんど見ないので、新鮮な気分だった。
「灰皿、借りていいですか」
「あら、翔一さんも吸うのね。灰皿ならそこのカウンターの隅の方に置いてあるの使って」
「ありがとうございます」
「それにしても、喫煙者には肩身の狭い世の中になったわねぇ」
「段々と世間の隅に追いやられてる感覚に陥ってます」
「直哉ちゃんも、大変でしょ」
「まぁね、俺は電子タバコだから翔一よりはまだマシかもしれないけど」
「最近のカラオケの喫煙室とか、電子タバコ専用室しか無いのな。あれすげぇ不公平だと思う」
「あれめっちゃ助かってる」
「直哉ちゃんもなかなか大変じゃないの?最近電子タバコと紙タバコ吸い分けてるでしょ」
「あ、ちょっとそれは……」
「あらごめんなさい、同僚さんには紙タバコ吸ってること隠してた?」
「え?お前最近紙タバコ吸ってたっけ」
「いや、まぁ、たまにな」
「別に隠すことじゃないだろ。俺の前でもたまに吸ってたくせに」
「そうなんだけどな、なんか気になってな」
「そのなんか気になるの『なんか』が何か俺が一番気になるっての」
「後ろめたいわけじゃないんだけどな」
「後ろめたい事だったら締め上げて吐かせるぞ」
「あら、怖い同僚さんね。ロクでもない上司と、それに逆らえない部下って感じかしら」
「上司と部下っていうか、なんて言うんですか、本当にただの同僚って感じですよ」
翔一の言葉が少しだけ胸に針のように刺さった気がした。ただの同僚。この場を誤魔化すための言葉だったとしても、「ただの」なんて付けなくてもよかったんじゃないの。とか思いながら、メンヘラみたいな考えになった自分に少し呆れた。別に翔一がなんて言おうが俺達がお互いを想っているのは変わらないのに、一言ひとことに一喜一憂してしまう癖を本気でそろそろ治したいとは思っている。
「翔一さん、お酒飲むペース早いわね。そんなんじゃ朝までには潰れちゃうわよ」
「え?朝まで俺達ここにいる予定なんですか?」
「直哉ちゃんはいつも明け方までいるから今日もそうなのかと思ってたけど」
「お前……」
気まずそうに苦笑いを浮かべてながら頭を高速回転させて言い訳を考える。翔一を連れてきた時の反応を見たかっただけなのに、とんでもない墓穴を掘った。
明け方まで度数の低い酒をゆっくり飲んで、少しだけ寝てそのまま二日酔いみたいな状況で仕事に行ったこともある。眠気と気持ち悪さが合わさって、とんでもない顔で出社したこともある。我ながらとても馬鹿らしいと思う。