♪side:翔一
少しずつ日が傾いてきて、暗くなってきた新宿二丁目は昼間よりも段々と明るくなっていく様な気がする。ヴン……と鈍い音を立てて徐々に点灯し始めるネオンサインがこの街の活気を呼び起こす。
この街は昼間に夢を見る。朝、目が覚めて夢の続きを手繰り寄せる様に、人々はこの街に吸い込まれてくる。そうして昼間見た夢を現実にしようとする。
直哉に連れて来られた場所。外観は本当になんの変哲もないバーだった。店名が濃い青色のネオンで掲げられていて、入口ドアの横にもハイネケンのネオンが煌々と点灯している。
お待ちしておりました、お客様。と言わんばかりにバッチリと装飾が施された重そうな扉を開ける直哉について、俺もドアをくぐる。照明は暗めで、天井のど真ん中にシャンデリアがぶら下がっていた。店内の広さの割に煌びやかで大きなそれは、どことなく違和感を感じさせた。
「いらっしゃいませ」
金髪にベストで、バーテンという職業のために生まれてきたような男がバーカウンターの向こうから声をかけてきた。その男が直哉に声をかけた瞬間、俺は本気で腰を抜かすかと思うくらい驚いた。
「あら直哉ちゃん、元気だった?久しぶりねぇ」
「ちょっと仕事で忙しくて最近来れてなくて、ごめんね」
「いいのよいいのよ、たまに顔が見れれば。生存確認出来れば万事OKよ」
「生存確認とか縁起でもないこと言わないでよ。あ、俺はとりあえずサワー系のなにか適当にお願い。翔一は何飲む?ウイスキー?」
「とりあえずレモンサワーにしとくわ。直哉ちゃん、お酒弱いから薄めにしとくわね」
この空気、空間に馴染めないのは絶対に俺が悪い訳では無いと思う。直哉が俺を連れていきたい店がまさかこんな所だと思っていなかった。おまけに直哉がこういう店を行きつけにしていたこと自体もまぁまぁな衝撃だった。
「何飲む?じゃねぇよ馬鹿。なんだよこの店」
「なんだも何も、バーだよ」
「それは分かるんだけど、店員、その、なんて言うか」
「あぁ、それはこの人だけ。他のスタッフの男の人は心も身体も男だよ」
「あ、そうなんだ」
完全に早とちった。失礼。と心の中で申し訳程度の謝罪をしておき、とりあえず一杯目を注文した。
「ウイスキーを水割りで、銘柄は日本のやつで少し濃いめでお願いします」
「知多、白州、山崎、響、角瓶、トリスとか色々あるわよ。お好みは?」
「あ、じゃあ、響で」
「響ね。お兄さん、リッチなの?」
「いや、別にこいつと同じ職場だからリッチって訳では」
「そうなの?同僚さんなのね」
「そうなんですよ。同僚に何も知らされずに新宿のネオン街を連れ回されてたら、ここにたどり着きました」
「あら、それじゃなにかの縁があるのかもね。私たちの縁に、乾杯」
「乾杯」
そう言いながら、出てきたグラスを傾ける。響なんて高級なウイスキーの味は正直よく分からないけれど、いつものどうでもいい時に飲む酔うための酒とは明らかに違う上品な味がする気がした。味なのか、香りなのか、何かがいつもと違うような、そんな気がした。
少しずつ日が傾いてきて、暗くなってきた新宿二丁目は昼間よりも段々と明るくなっていく様な気がする。ヴン……と鈍い音を立てて徐々に点灯し始めるネオンサインがこの街の活気を呼び起こす。
この街は昼間に夢を見る。朝、目が覚めて夢の続きを手繰り寄せる様に、人々はこの街に吸い込まれてくる。そうして昼間見た夢を現実にしようとする。
直哉に連れて来られた場所。外観は本当になんの変哲もないバーだった。店名が濃い青色のネオンで掲げられていて、入口ドアの横にもハイネケンのネオンが煌々と点灯している。
お待ちしておりました、お客様。と言わんばかりにバッチリと装飾が施された重そうな扉を開ける直哉について、俺もドアをくぐる。照明は暗めで、天井のど真ん中にシャンデリアがぶら下がっていた。店内の広さの割に煌びやかで大きなそれは、どことなく違和感を感じさせた。
「いらっしゃいませ」
金髪にベストで、バーテンという職業のために生まれてきたような男がバーカウンターの向こうから声をかけてきた。その男が直哉に声をかけた瞬間、俺は本気で腰を抜かすかと思うくらい驚いた。
「あら直哉ちゃん、元気だった?久しぶりねぇ」
「ちょっと仕事で忙しくて最近来れてなくて、ごめんね」
「いいのよいいのよ、たまに顔が見れれば。生存確認出来れば万事OKよ」
「生存確認とか縁起でもないこと言わないでよ。あ、俺はとりあえずサワー系のなにか適当にお願い。翔一は何飲む?ウイスキー?」
「とりあえずレモンサワーにしとくわ。直哉ちゃん、お酒弱いから薄めにしとくわね」
この空気、空間に馴染めないのは絶対に俺が悪い訳では無いと思う。直哉が俺を連れていきたい店がまさかこんな所だと思っていなかった。おまけに直哉がこういう店を行きつけにしていたこと自体もまぁまぁな衝撃だった。
「何飲む?じゃねぇよ馬鹿。なんだよこの店」
「なんだも何も、バーだよ」
「それは分かるんだけど、店員、その、なんて言うか」
「あぁ、それはこの人だけ。他のスタッフの男の人は心も身体も男だよ」
「あ、そうなんだ」
完全に早とちった。失礼。と心の中で申し訳程度の謝罪をしておき、とりあえず一杯目を注文した。
「ウイスキーを水割りで、銘柄は日本のやつで少し濃いめでお願いします」
「知多、白州、山崎、響、角瓶、トリスとか色々あるわよ。お好みは?」
「あ、じゃあ、響で」
「響ね。お兄さん、リッチなの?」
「いや、別にこいつと同じ職場だからリッチって訳では」
「そうなの?同僚さんなのね」
「そうなんですよ。同僚に何も知らされずに新宿のネオン街を連れ回されてたら、ここにたどり着きました」
「あら、それじゃなにかの縁があるのかもね。私たちの縁に、乾杯」
「乾杯」
そう言いながら、出てきたグラスを傾ける。響なんて高級なウイスキーの味は正直よく分からないけれど、いつものどうでもいい時に飲む酔うための酒とは明らかに違う上品な味がする気がした。味なのか、香りなのか、何かがいつもと違うような、そんな気がした。