♪side:直哉
コーヒーショップを出た。もうそろそろ夕方になる時間なのにまだまだ暑い。ヒートアイランド現象が思い切り猛威を振るっている。これが田舎なら、ある程度は涼しくなって夕方のチャイムが鳴り始め、子供たちが家に帰り始める時間だ。
特に言葉も交わさず、駅近くの喫煙所に向かう。喫煙所と言っても、ガラスで区切られた申し訳程度のスペースの中に灰まみれになった灰皿がポツンとひとつ置いてあるだけの場所だ。本当に喫煙所に風当たりが強くなったと思う。
喫煙所に着いて、ポケットから電子タバコの本体を取り出す。スティックを差し込んで電源を入れ、吸えるようになるまで少し待つ。横では翔一がジッポーライターを使ってショートホープに火をつけていた。
「あれ。まだそれ吸ってるんだ」
「この前二箱も買っちまってさ。まだ残ってんだ」
「普段四ミリの奴がいきなり十四ミリはキツいだろ」
「一箱にしとけばよかったと思ってるよ」
「それ本当に蜂蜜の匂いするん?」
「蜂蜜?なんで蜂蜜?」
「ショートホープって確か香料に蜂蜜使われてるらしいってどっかで」
「え?そうなん?もう何年も吸ってなかったから忘れたし、なんなら気づいてなかったかも」
「ちょっと、一本貸してくれよ」
「いいけど、返せよ」
「くれって言ってんじゃねぇよ」
「わかってる。ほら」
渡されたそれを嗅いでみる。テレビかなんかで聞いた話だったから正直どんなもんかとは思っていたけど、言われてみれば確かにタバコの葉っぱの奥にほんのり蜂蜜がいる気がする。
「思ったより蜂蜜。昨日貰った時は全然気付かなかったけどな。返す」
「お前、それ嗅ぐときに鼻にくっつけただろ。返さなくていいよ」
「なんだよ、人を汚いみたいに」
「汚ぇなとは思わないけど、なんか、それをまた箱に戻すのちょっと嫌なんだよ」
「そんな事言うなよな。それに今これ貰っても吸えねぇし」
「電子タバコってどうなんだよ」
「話の腰折りすぎだろ。俺は電子タバコは気に入ってるけど」
「どこがいいんだよ」
「俺はそんなに吸わないから気に入ってるだけだし、翔一みたいなヘビースモーカーは電子タバコ嫌いだと思うぞ」
「へぇ。ならこれ以上聞かねぇわ」
「メンソール苦手な翔一には地獄かも知れねぇな」
「そう、それ。メンソールのどこが美味いのっていつも思うんだ」
「美味い美味くないで考えんなよ。味って言うか、清涼感がいい。特に今みたいなクソ暑い時期とかな」
「嫌いな食べ物の魅力を語られてる感じだな。全然興味湧かねぇわ」
「そうかよ」
一本吸ってみるか?と聞こうとしてやめた。どうやら翔一は生粋の紙巻き煙草信者らしい。
翔一が二本目の煙草に火をつけた時、ちょうど電子タバコの吸い終わりを知らせるランプが点滅した。翔一が吸い終わるのを待ってようとも思ったが、手に持ったままおさまりの悪いショートホープも吸ってしまうことにした。
「あ、ごめん。ライター貸して」
「結局吸うんだ」
「俺の煙草の箱には入らないし、持って歩くのも面倒だろ」
「ほら」
くすんだ銀色のライターを渡され、火をつけた。すぐライターを返してゆっくり吸ってみた。昨日も思ったが、やっぱり十四ミリは俺にとってキツすぎる。咳き込みそうになりながら少しずつ灰を伸ばしていく。火をつけてしまえば、いつもの煙草の匂いと青みがかった煙だけが立ち上っていって、蜂蜜の匂いなんて一切感じられない。翔一にとっては思い出深いタバコなんだろうが、俺にとってはただのキツすぎる煙草だ。フィルターの根元までは吸わず、少し残して灰皿に押し付けた。よくもまぁ翔一はこんな煙草をチェーンスモークできるもんだと感心する。
一息ついて喫煙所から出る。翔一を連れていきたい店が開店するまであと一時間ほど、どこでどう時間を潰そうかと頭を悩ませる。
コーヒーショップを出た。もうそろそろ夕方になる時間なのにまだまだ暑い。ヒートアイランド現象が思い切り猛威を振るっている。これが田舎なら、ある程度は涼しくなって夕方のチャイムが鳴り始め、子供たちが家に帰り始める時間だ。
特に言葉も交わさず、駅近くの喫煙所に向かう。喫煙所と言っても、ガラスで区切られた申し訳程度のスペースの中に灰まみれになった灰皿がポツンとひとつ置いてあるだけの場所だ。本当に喫煙所に風当たりが強くなったと思う。
喫煙所に着いて、ポケットから電子タバコの本体を取り出す。スティックを差し込んで電源を入れ、吸えるようになるまで少し待つ。横では翔一がジッポーライターを使ってショートホープに火をつけていた。
「あれ。まだそれ吸ってるんだ」
「この前二箱も買っちまってさ。まだ残ってんだ」
「普段四ミリの奴がいきなり十四ミリはキツいだろ」
「一箱にしとけばよかったと思ってるよ」
「それ本当に蜂蜜の匂いするん?」
「蜂蜜?なんで蜂蜜?」
「ショートホープって確か香料に蜂蜜使われてるらしいってどっかで」
「え?そうなん?もう何年も吸ってなかったから忘れたし、なんなら気づいてなかったかも」
「ちょっと、一本貸してくれよ」
「いいけど、返せよ」
「くれって言ってんじゃねぇよ」
「わかってる。ほら」
渡されたそれを嗅いでみる。テレビかなんかで聞いた話だったから正直どんなもんかとは思っていたけど、言われてみれば確かにタバコの葉っぱの奥にほんのり蜂蜜がいる気がする。
「思ったより蜂蜜。昨日貰った時は全然気付かなかったけどな。返す」
「お前、それ嗅ぐときに鼻にくっつけただろ。返さなくていいよ」
「なんだよ、人を汚いみたいに」
「汚ぇなとは思わないけど、なんか、それをまた箱に戻すのちょっと嫌なんだよ」
「そんな事言うなよな。それに今これ貰っても吸えねぇし」
「電子タバコってどうなんだよ」
「話の腰折りすぎだろ。俺は電子タバコは気に入ってるけど」
「どこがいいんだよ」
「俺はそんなに吸わないから気に入ってるだけだし、翔一みたいなヘビースモーカーは電子タバコ嫌いだと思うぞ」
「へぇ。ならこれ以上聞かねぇわ」
「メンソール苦手な翔一には地獄かも知れねぇな」
「そう、それ。メンソールのどこが美味いのっていつも思うんだ」
「美味い美味くないで考えんなよ。味って言うか、清涼感がいい。特に今みたいなクソ暑い時期とかな」
「嫌いな食べ物の魅力を語られてる感じだな。全然興味湧かねぇわ」
「そうかよ」
一本吸ってみるか?と聞こうとしてやめた。どうやら翔一は生粋の紙巻き煙草信者らしい。
翔一が二本目の煙草に火をつけた時、ちょうど電子タバコの吸い終わりを知らせるランプが点滅した。翔一が吸い終わるのを待ってようとも思ったが、手に持ったままおさまりの悪いショートホープも吸ってしまうことにした。
「あ、ごめん。ライター貸して」
「結局吸うんだ」
「俺の煙草の箱には入らないし、持って歩くのも面倒だろ」
「ほら」
くすんだ銀色のライターを渡され、火をつけた。すぐライターを返してゆっくり吸ってみた。昨日も思ったが、やっぱり十四ミリは俺にとってキツすぎる。咳き込みそうになりながら少しずつ灰を伸ばしていく。火をつけてしまえば、いつもの煙草の匂いと青みがかった煙だけが立ち上っていって、蜂蜜の匂いなんて一切感じられない。翔一にとっては思い出深いタバコなんだろうが、俺にとってはただのキツすぎる煙草だ。フィルターの根元までは吸わず、少し残して灰皿に押し付けた。よくもまぁ翔一はこんな煙草をチェーンスモークできるもんだと感心する。
一息ついて喫煙所から出る。翔一を連れていきたい店が開店するまであと一時間ほど、どこでどう時間を潰そうかと頭を悩ませる。