♪side:直哉
中央線快速、東京行きの列車内はいつもすしずめ状態で、ましてやボックスシートに座れることなんてほとんど無い。車窓を流れていく景色が少しずつ神田に近づいてきて、車内アナウンスが流れ始める。
「この電車は中央線中央特快東京行きです。This is the Chuo Line Special Rapid service train for Tokyo. 次は 神田 神田 お出口は右側です。山手線 京浜東北線と地下鉄銀座線はお乗りかえです。The next station is Kanda. The doors on the right side will open. Please change here for the Yamanote Line, the Keihin-Tohoku Line and the Ginza Subway Line……」
吊革に捕まって車内アナウンスを聞き流す。曇りきった空気の中、列車に揺られる。
イヤホンをして目を閉じている若者や狭いボックスシートで日経新聞を読んでいる中年男性、まだ雪がちらつくような季節だというのにとんでもなく短いスカートを履いた女性、目に入ってくる景色はどれもいつもと変わらない。乗降口の上に付いたモニターも変わらず胡散臭いコマーシャルをずっと流していた。
中央線は四ツ谷駅に停まり、どんよりした空気とそれまで乗っていた人達の何割かが降りていく。そしてまた、どんよりした空気とたくさんの人が乗ってくる。二分としないうちにドアが閉まり、発車した。それから俺たちは御茶ノ水駅を過ぎ、神田に到着した。
神田駅で中央線から京浜東北線に乗り換える。ホームは五番線から四番線に移るだけだったので、降りてすぐ目の前に到着する列車に乗り換える。
シルバーの車体に青いラインが二本入った列車がゆっくりと目の前に到着し、一斉にドアが開いた。俺たちはいつものごとく、オチのない話をしながら列車に吸い込まれていく。メロディが流れ、またゆっくりと列車は動き出す。
横にいる翔一と普通に話している。
朝、というかほとんどさっき唇を奪われたとは思えないほど普通に話せている自分に少し驚いている。何故か、勝手にこういう時は気まずくなるもんだと思い込んでいた。まだはっきりと翔一の唇の感触も温かさも覚えている。そこらの男女のカップルよりかは思い切ったキスをされただけあって、一段と翔一に対する気持ちは深くなった気がする。たかが一回のキスだからどうこうとか言ってくる人はいるとは思うが、俺にとってはあの瞬間が心地よかった。正直に言えば「いきなり、ふざけんな」とも思ったけど、やっぱりどうしようもなく心地よかった。
吊革に捕まっていない方の手で唇にそっと触れて、少し無理矢理なキスを思い返していた。翔一の話の内容は一切頭に入ってこなかった。適当な相槌を打ちながら、あの温度と感触を再度脳の奥に焼き付けた。
気づけばもう既に御徒町を過ぎ、上野に到着しようとしていた。
また車内アナウンスが流れ始め、列車はゆっくりとスピードを落としていく。
中央線快速、東京行きの列車内はいつもすしずめ状態で、ましてやボックスシートに座れることなんてほとんど無い。車窓を流れていく景色が少しずつ神田に近づいてきて、車内アナウンスが流れ始める。
「この電車は中央線中央特快東京行きです。This is the Chuo Line Special Rapid service train for Tokyo. 次は 神田 神田 お出口は右側です。山手線 京浜東北線と地下鉄銀座線はお乗りかえです。The next station is Kanda. The doors on the right side will open. Please change here for the Yamanote Line, the Keihin-Tohoku Line and the Ginza Subway Line……」
吊革に捕まって車内アナウンスを聞き流す。曇りきった空気の中、列車に揺られる。
イヤホンをして目を閉じている若者や狭いボックスシートで日経新聞を読んでいる中年男性、まだ雪がちらつくような季節だというのにとんでもなく短いスカートを履いた女性、目に入ってくる景色はどれもいつもと変わらない。乗降口の上に付いたモニターも変わらず胡散臭いコマーシャルをずっと流していた。
中央線は四ツ谷駅に停まり、どんよりした空気とそれまで乗っていた人達の何割かが降りていく。そしてまた、どんよりした空気とたくさんの人が乗ってくる。二分としないうちにドアが閉まり、発車した。それから俺たちは御茶ノ水駅を過ぎ、神田に到着した。
神田駅で中央線から京浜東北線に乗り換える。ホームは五番線から四番線に移るだけだったので、降りてすぐ目の前に到着する列車に乗り換える。
シルバーの車体に青いラインが二本入った列車がゆっくりと目の前に到着し、一斉にドアが開いた。俺たちはいつものごとく、オチのない話をしながら列車に吸い込まれていく。メロディが流れ、またゆっくりと列車は動き出す。
横にいる翔一と普通に話している。
朝、というかほとんどさっき唇を奪われたとは思えないほど普通に話せている自分に少し驚いている。何故か、勝手にこういう時は気まずくなるもんだと思い込んでいた。まだはっきりと翔一の唇の感触も温かさも覚えている。そこらの男女のカップルよりかは思い切ったキスをされただけあって、一段と翔一に対する気持ちは深くなった気がする。たかが一回のキスだからどうこうとか言ってくる人はいるとは思うが、俺にとってはあの瞬間が心地よかった。正直に言えば「いきなり、ふざけんな」とも思ったけど、やっぱりどうしようもなく心地よかった。
吊革に捕まっていない方の手で唇にそっと触れて、少し無理矢理なキスを思い返していた。翔一の話の内容は一切頭に入ってこなかった。適当な相槌を打ちながら、あの温度と感触を再度脳の奥に焼き付けた。
気づけばもう既に御徒町を過ぎ、上野に到着しようとしていた。
また車内アナウンスが流れ始め、列車はゆっくりとスピードを落としていく。