♪side:翔一

年が明けて少し経ってから長野に戻った。卒業論文の提出も終わり、大学に行く理由もほとんど無くなった。相変わらず就職先は決まっていないが、そのうちなんとかなると思っているし、なんとか出来ると思っている。長野に残るのもいいと思ってるし、新宿に帰ってもいいと思う。どっちにしろ、普通に生きていける自身はあった。生きていける自信というか、死なない自信って言った方がしっくりくるのだけど。
航大とは相も変わらず、アパートの部屋でラジオを聞いたり、くだらない話をしたりして過ごしている。航大と一緒にいるのはやっぱり楽しいし、なにより自分の知らないことをいつも教えてくれたりする。笑えない日は一日も無かった。傷付く日や悲しい気持ちになる日はあったけど、いつも航大は俺の事を笑わせてくれた。正直、性別なんてどうでもよく思える程にあいつの事が好きだ。あの時の返事は、まだ伝えられていないけど。
結局あの日から航大とキスはしていない。したいとも思わなかった。