♪side:航大

お互いの気持ちを打ち明け合ってキスまでしたあの日から、恋人同士みたいな関係になるわけでもなく普通の大学生みたいな日常を過ごしてきた。講義やバイト、アパートでの日々は、そこらの恋人同士よりも密度の濃い時間を送っていた自信がある。かと言って、別に首席を取れるほど勉強して期末試験で満点を取ったとか、バイトでめちゃくちゃに頑張ってシフトリーダーになったりとかいったことは無かった。平凡な毎日を平凡に暮らしていた。俺はそれが一番楽しかったと思うし、翔一もそんなくだらない毎日をそれなりに楽しんでくれていたと思う。翔一からおすすめの曲を教えてもらったり、たまに二人でラジオ番組にハガキを書いて送ってみたりした。あれからずっと、俺達のハガキはどの番組でも読まれていない。俺と翔一を繋いでくれるもののひとつがラジオだと思うから、別に読まれなくても構わない。あの日の、温くなって炭酸が抜けたジンジャーエールの味はラジオのリスナーに届きそうもなかった。