♪side:航大
翔一に使い古しのライターをあげた。テーブルの向こう側で煙が天井に向かって伸びていくのをぼやっと眺めている。
煙草の箱と俺がさっき放り投げたライターをカバンにしまった翔一も、煙草をもみ消してぼけっとしている。別にわざわざ話しかける程の話題も今は持ってなかったから、部屋の天井に溜まった煙が泳いでいるのを目で追ってみたりした。雲みたいに長い時間そこにいる訳もなく、数秒で消えてしまう。
沈黙が嫌になって、また何の気なしに翔一に話しかけてみた。
「さっきのさ」
「さっきの?」
「あれだ、俺との、どうだった?」
「どうだったって……そんな事聞くなよな」
「いや、すまん、でも、気になって」
「言い表しづらいところはあるけどなぁ。なんか、恋人との感覚に近いもんがあった気はしたな」
「俺もだいたいそんな感じかも」
「その、セフレ? っていう人とした時の感覚とは違うってか」
「そもそもあいつとはキスしてねぇからな」
「キスはしてねぇのにセックスはしたのかよ」
「なんでだろうな。毎週毎週ホテル行ったりしてたのに、キスだけはしてこなかったな」
「本当にただのセフレだったわけか」
「そうだろうな。もしかしたらお互い少なからずそういう気持ちがあったのかも知れないけど、それもあの日で終わったんだよな」
「なんだそのドラマみたいなの」
「俺もドラマみたいだったなって今でも思ってるよ。一番の人なんていないくせに、あの部屋ではお互いがお互いの二番目の人になりきってて、それで朝にはもう他人になってるみたいな」
「お前の今のセリフの方がドラマみたいだわ。くっさいこと言いやがって」
「仕方ねぇだろ、事実なんだよ。多分、あの日から明確に女の人が抱けなくなったんだと思う」
「さっきのラジオでも言ってたしな」
「お前なら抱けるかも知れねぇけどな」
「おいそれは冗談きついぜ」
「悪い。さすがに冗談だけどさ」
「冗談にしといてくれよ」
「でも、なんにせよあの日の夜が今の俺を作った決定的な日だった訳だわな」
「今の航大を作った決定的な日なぁ。それなら当時の航大のセフレさんには感謝だな」
「縁起でもねぇこと言うなよ」
「その日がなきゃ、今俺の隣で笑ってる航大がいなかったかもなんだろ?そう考えたら感謝もするだろ。その人にとっちゃちょっと申し訳ないことだけど」
「うわ、くっせぇ。よくそんな恥ずかしい面と向かって事言えるよな」
「お前も大概恥ずかしいこと言ってるけどな? 人の事言えねぇぞ? 」
「自覚が無いだけなんだって」
「自覚無しで恥ずかしいこと言える程の能天気で羨ましいよ」
「褒めてんのか貶してんのかどっちだよ」
「三割褒めてる」
「七割貶してんじゃねぇかよ」
「褒める所ほとんど無いだろ」
「あるだろ。キス上手かったろ」
「キスの上手い下手とか知るかよ。びっくりしすぎてそこまで気にかけれなかったし」
「じゃあ、またそのうちしてやるよ」
「いきなりはやめろよ」
「今度はちゃんと言うって」
「そうしてくれ」
勢いで過去の話までしてしまった。それに、さっきの唇の感触まで思い出して、死ぬほど恥ずかしくなった。いてもたってもいられず、ショートホープに火をつけ思い切り吸う。横からセブンスターを咥えた翔一が顔を出してきて、俺のショートホープの先端に押し付けて火を移した。無言で戻った翔一を横目に、また深く吸い込む。ただでさえ短い煙草が余計に短く感じる。根元まで吸ってほぼフィルターだけになった煙草を消して、灰皿に放り込む。セブンスターとショートホープの吸殻がいくつか無造作に並んでいる。苦くなった口の中を、その辺に置いてあった炭酸の抜けたジンジャーエールで流した。
翔一に使い古しのライターをあげた。テーブルの向こう側で煙が天井に向かって伸びていくのをぼやっと眺めている。
煙草の箱と俺がさっき放り投げたライターをカバンにしまった翔一も、煙草をもみ消してぼけっとしている。別にわざわざ話しかける程の話題も今は持ってなかったから、部屋の天井に溜まった煙が泳いでいるのを目で追ってみたりした。雲みたいに長い時間そこにいる訳もなく、数秒で消えてしまう。
沈黙が嫌になって、また何の気なしに翔一に話しかけてみた。
「さっきのさ」
「さっきの?」
「あれだ、俺との、どうだった?」
「どうだったって……そんな事聞くなよな」
「いや、すまん、でも、気になって」
「言い表しづらいところはあるけどなぁ。なんか、恋人との感覚に近いもんがあった気はしたな」
「俺もだいたいそんな感じかも」
「その、セフレ? っていう人とした時の感覚とは違うってか」
「そもそもあいつとはキスしてねぇからな」
「キスはしてねぇのにセックスはしたのかよ」
「なんでだろうな。毎週毎週ホテル行ったりしてたのに、キスだけはしてこなかったな」
「本当にただのセフレだったわけか」
「そうだろうな。もしかしたらお互い少なからずそういう気持ちがあったのかも知れないけど、それもあの日で終わったんだよな」
「なんだそのドラマみたいなの」
「俺もドラマみたいだったなって今でも思ってるよ。一番の人なんていないくせに、あの部屋ではお互いがお互いの二番目の人になりきってて、それで朝にはもう他人になってるみたいな」
「お前の今のセリフの方がドラマみたいだわ。くっさいこと言いやがって」
「仕方ねぇだろ、事実なんだよ。多分、あの日から明確に女の人が抱けなくなったんだと思う」
「さっきのラジオでも言ってたしな」
「お前なら抱けるかも知れねぇけどな」
「おいそれは冗談きついぜ」
「悪い。さすがに冗談だけどさ」
「冗談にしといてくれよ」
「でも、なんにせよあの日の夜が今の俺を作った決定的な日だった訳だわな」
「今の航大を作った決定的な日なぁ。それなら当時の航大のセフレさんには感謝だな」
「縁起でもねぇこと言うなよ」
「その日がなきゃ、今俺の隣で笑ってる航大がいなかったかもなんだろ?そう考えたら感謝もするだろ。その人にとっちゃちょっと申し訳ないことだけど」
「うわ、くっせぇ。よくそんな恥ずかしい面と向かって事言えるよな」
「お前も大概恥ずかしいこと言ってるけどな? 人の事言えねぇぞ? 」
「自覚が無いだけなんだって」
「自覚無しで恥ずかしいこと言える程の能天気で羨ましいよ」
「褒めてんのか貶してんのかどっちだよ」
「三割褒めてる」
「七割貶してんじゃねぇかよ」
「褒める所ほとんど無いだろ」
「あるだろ。キス上手かったろ」
「キスの上手い下手とか知るかよ。びっくりしすぎてそこまで気にかけれなかったし」
「じゃあ、またそのうちしてやるよ」
「いきなりはやめろよ」
「今度はちゃんと言うって」
「そうしてくれ」
勢いで過去の話までしてしまった。それに、さっきの唇の感触まで思い出して、死ぬほど恥ずかしくなった。いてもたってもいられず、ショートホープに火をつけ思い切り吸う。横からセブンスターを咥えた翔一が顔を出してきて、俺のショートホープの先端に押し付けて火を移した。無言で戻った翔一を横目に、また深く吸い込む。ただでさえ短い煙草が余計に短く感じる。根元まで吸ってほぼフィルターだけになった煙草を消して、灰皿に放り込む。セブンスターとショートホープの吸殻がいくつか無造作に並んでいる。苦くなった口の中を、その辺に置いてあった炭酸の抜けたジンジャーエールで流した。