♪side:航大
翔一から言われた言葉の意味を必死に理解しようとする。目の前のこいつは、確かに俺の事を「男として好きだ」と言った。頭の中が真っ白になって、返す言葉が一つも見つけられなかった。聞けば、さっきのラジオで読まれた五枚目のハガキの送り主は翔一らしい。同じラジオ番組で俺と翔一の送ったハガキが同時に読まれるなんて。
「あのさ、さっきの五枚目のハガキは翔一が書いたって話じゃん」
「そうだけど。なんだよ、また話そらすのかよ」
「ちげぇよ。まぁ聞けよ」
「なんだよ」
「あの番組で六枚目に読まれたハガキ、実は俺の送ったやつなんだ」
「いや、今はその冗談笑えねぇ」
「冗談じゃねぇって。誰にも読まれないだろうと思って、過去の思い出の供養みたいな感じで書いて送ったつもりだったんだけどな」
「過去の思い出?」
「七海っていう……まぁ、世間が言うところのセフレがいてさ」
「は?七海?セフレ?」
「そう。話した事無かったけどさ」
「この前お前、寝言で『七海』って名前呼んでたぞ」
「は?本当に?」
「てっきり俺の知らないところで彼女でもできたのかと思ってたぞ」
「ちょっと待て、その寝言言ってた日っていつだ?」
「俺が初めてハガキ書いたあの夜だよ」
「あぁ、なるほどね」
「なるほどね、じゃないんだよね。なに自己完結してんだよ」
「悪い、やっぱ説明必要か?」
「無理に話せとは言わねぇけどな。もしあれなら、話してもいいと思える時になったら話してくれたらありがたい」
「まぁちょっと先に、俺も言っとかなきゃなんねぇ事ってあるわな」
「なんだよ」
「よくわかってなかったけど、俺も多分お前のことが男として好きなんだと思う。後出しじゃんけんみたいな言い方で悪いんだけど、多分、俺も本気だよ」
「多分とか言うなって」
「確信はしてるつもりなんだよな。でも、万が一この気持ちがなにかの間違いだったりしたらって思うと少し怖くてな」
「なにかの間違いなんて、そんな事言うなよ」
「物事に絶対は無い。だろ」
「絶対は無くても、信じることは出来るだろ」
「確かにな……」
信じることは出来る。そのたった一言で、心の中を占拠していた薄暗いモヤモヤしたものが晴れていく気がした。あまりに綺麗に論破されて、言葉が繋げなくなった。
そうだよな。簡単だったはずなんだ。自分の気持ちを素直に信じればよかったんだ。翔一の事が好きなのかもしれない、と気づいた時にそのまま自分を信じてやればよかった。それなのに、同性愛は世間から外れているとか言う様な杓子定規に囚われ続けた結果、気持ちを疑ってしまっていた。「これは翔一に対しての恋愛的な感情なのかどうか」と、心のどこかで疑ってしまっていた。
どこまでも醜い自分が少しだけ嫌になった。
「なに黙ってんだよ」
「いや、まさかあんな綺麗に論破されるなんて思わないだろ」
「そういうことかよ。またなんか考え事でもしてたのかと思ったけど」
「考え事はしてたけど」
「してたのかよ」
「お前になんて言おうか考えてたんだよ。さっきの話もまだケリついてないし」
「別にすぐケリつけろとは言わねぇよ」
「いや、悪いな。俺は腹を決めたぜ」
「は?……ん……」
「……」
身体が衝動的に動いていた。頭で考える前に翔一の首の後ろに腕を回して、そのまま唇を重ねた。知らない煙草の匂いがうっすらと鼻に届く。少しだけ濡れた唇は思った以上に柔らかかった。
「いきなり何すんだ」
「悪い、ちょっと……なんか」
「まぁいいけどさ、今度からは言ってからやれよ」
「いいのかよ」
「誰も悪いなんて言ってねぇよ。いきなりするなって言いたいだけ」
「わかったよ。今度からな」
「おう」
女の人のそれとはあからさまに違う唇の感触が一生忘れられない気がした。唇に触れてみて、改めて我に返ってしまう。猛烈な恥ずかしさが襲ってきて、「何やってんだ自分」なんて思っても、後の祭りだった。
翔一から言われた言葉の意味を必死に理解しようとする。目の前のこいつは、確かに俺の事を「男として好きだ」と言った。頭の中が真っ白になって、返す言葉が一つも見つけられなかった。聞けば、さっきのラジオで読まれた五枚目のハガキの送り主は翔一らしい。同じラジオ番組で俺と翔一の送ったハガキが同時に読まれるなんて。
「あのさ、さっきの五枚目のハガキは翔一が書いたって話じゃん」
「そうだけど。なんだよ、また話そらすのかよ」
「ちげぇよ。まぁ聞けよ」
「なんだよ」
「あの番組で六枚目に読まれたハガキ、実は俺の送ったやつなんだ」
「いや、今はその冗談笑えねぇ」
「冗談じゃねぇって。誰にも読まれないだろうと思って、過去の思い出の供養みたいな感じで書いて送ったつもりだったんだけどな」
「過去の思い出?」
「七海っていう……まぁ、世間が言うところのセフレがいてさ」
「は?七海?セフレ?」
「そう。話した事無かったけどさ」
「この前お前、寝言で『七海』って名前呼んでたぞ」
「は?本当に?」
「てっきり俺の知らないところで彼女でもできたのかと思ってたぞ」
「ちょっと待て、その寝言言ってた日っていつだ?」
「俺が初めてハガキ書いたあの夜だよ」
「あぁ、なるほどね」
「なるほどね、じゃないんだよね。なに自己完結してんだよ」
「悪い、やっぱ説明必要か?」
「無理に話せとは言わねぇけどな。もしあれなら、話してもいいと思える時になったら話してくれたらありがたい」
「まぁちょっと先に、俺も言っとかなきゃなんねぇ事ってあるわな」
「なんだよ」
「よくわかってなかったけど、俺も多分お前のことが男として好きなんだと思う。後出しじゃんけんみたいな言い方で悪いんだけど、多分、俺も本気だよ」
「多分とか言うなって」
「確信はしてるつもりなんだよな。でも、万が一この気持ちがなにかの間違いだったりしたらって思うと少し怖くてな」
「なにかの間違いなんて、そんな事言うなよ」
「物事に絶対は無い。だろ」
「絶対は無くても、信じることは出来るだろ」
「確かにな……」
信じることは出来る。そのたった一言で、心の中を占拠していた薄暗いモヤモヤしたものが晴れていく気がした。あまりに綺麗に論破されて、言葉が繋げなくなった。
そうだよな。簡単だったはずなんだ。自分の気持ちを素直に信じればよかったんだ。翔一の事が好きなのかもしれない、と気づいた時にそのまま自分を信じてやればよかった。それなのに、同性愛は世間から外れているとか言う様な杓子定規に囚われ続けた結果、気持ちを疑ってしまっていた。「これは翔一に対しての恋愛的な感情なのかどうか」と、心のどこかで疑ってしまっていた。
どこまでも醜い自分が少しだけ嫌になった。
「なに黙ってんだよ」
「いや、まさかあんな綺麗に論破されるなんて思わないだろ」
「そういうことかよ。またなんか考え事でもしてたのかと思ったけど」
「考え事はしてたけど」
「してたのかよ」
「お前になんて言おうか考えてたんだよ。さっきの話もまだケリついてないし」
「別にすぐケリつけろとは言わねぇよ」
「いや、悪いな。俺は腹を決めたぜ」
「は?……ん……」
「……」
身体が衝動的に動いていた。頭で考える前に翔一の首の後ろに腕を回して、そのまま唇を重ねた。知らない煙草の匂いがうっすらと鼻に届く。少しだけ濡れた唇は思った以上に柔らかかった。
「いきなり何すんだ」
「悪い、ちょっと……なんか」
「まぁいいけどさ、今度からは言ってからやれよ」
「いいのかよ」
「誰も悪いなんて言ってねぇよ。いきなりするなって言いたいだけ」
「わかったよ。今度からな」
「おう」
女の人のそれとはあからさまに違う唇の感触が一生忘れられない気がした。唇に触れてみて、改めて我に返ってしまう。猛烈な恥ずかしさが襲ってきて、「何やってんだ自分」なんて思っても、後の祭りだった。