♪side:翔一

パーソナリティが淡々とハガキを読んではコメントをして、五枚目に読まれたハガキは俺の送ったものだった。

「次のハガキは、長野県長野市の方からです。これはまた熱い思いが込められているのか、裏一面びっしり書いてくれています。では、読ませていただきます。『俺は、きっと誰かを好きになるんだとしたら相手は男なんだと思う。別に、女の人に魅力を感じないわけじゃない。ただ、大学のミスコンでグランプリを取った女の子よりも眩しい存在が身近にいてしまうから、俺はきっと女の子を好きになることは出来ないんだと思う。俺が眩しいと思うそいつは、無精髭が生えてたりとか酒飲みだとか煙草吸ってたりとか、傍から見たらろくでもない男なんだろうけど。一緒にいると、ありのままの自分を受け入れてくれるような奴。認めたくはないけど、多分俺はそいつの事を男として好きなんだと思う。もしこのハガキが読まれたら、同性愛についてどう思うか聞かせてください』との事で、この方はもしかしたら、もう男性として好きな方が身近にいるんじゃないでしょうか。雪村さんはどう思いますか?」
「私もそう思います。なんか、いいですよね。正直私は、同性愛なんて……なんて思ってましたけど、なんて言うかこう、普通の男女の恋愛と気持ちは変わらないんだなって痛感してます。偏った見方をしてしまっていたんだなぁと、そう思います」
「いや、実は私もこの企画の話が来た時はそうやって思ってました。今は五枚目のハガキなんですが、少なくとも五人、いや、今日届いているハガキの総数以上の同性愛というものがあるんだってことを思い知っています」
「それに、綴られた文を聞いていると、本当にどうしようもなく美しい恋愛がそこに確かにあるんですね。素直に、素晴らしいことだと思います」

自分の気持ちにコメントが付けられるってこんなにも恥ずかしいものなのか。とか、俺ってやっぱ航大のこと男として好きなんだな。とか散々気付かされる放送だ。別に自覚はしていたつもりだが、他の誰かに自分の気持ちをそこまでしっかり言葉にされるととんでもなく恥ずかしくなる。早く次のハガキに移ってくれと思いながらラジオを聞き流す。

「さて、まだまだハガキは届いています。今日の六枚目のハガキは、これまた長野県長野市からのお便りです。この方もなかなか長い文章で、感情がストレートに伝わってきます。では、読ませていただきます。『俺の恋愛対象は男なのかもしれない。ある女の子との関係が最後になった日、俺はもう女の子を抱くことは出来ないと思った。それが恋愛対象が男であるというはっきりとした理由かどうかは分からないし、女の子が抱けないから男が好きだという理論が成り立つ訳でもない。その上で男が好きなのかもしれないと言う理由は、今一緒に住んでいる大学の友人が男で、そいつの事を男として好きなのかも知れないと思い始めてきたからだ。世間からはどうせ変な目で見られると思うから、周りには相談せずハガキにして送るという方法で気持ちを消化させようかと思い、今回ハガキを送ってみました』との事で、もう同棲しているような感じなんですかねぇ。ただ、気持ちも伝えてないし相手もこのことを知らない。とても甘酸っぱい感じがしますね」
「私こういう少女漫画みたいな展開のお話大好きです」
「いや、漫画の中じゃなくてリアルにこの日本のどこかでこう思っている人がいるってことですよ」
「そうですね。もしかしたら、もしかしたらですよ?さっきのハガキを送ってきてくれた方と今のハガキの方、同じ気持ちなのかもしれないです。この二人がもしどこかで出会ったら、とても素晴らしい友達になってるのかもしれないです」
「あら、雪村さんめちゃくちゃいいこと言うね。ちょうど僕もそう思ってた」
「ですよね、そんな感じしますよね」
「ってことで、今日も時間が押してきてしまいました。あまりに熱い気持ちが溢れ出して来ていて、ついついコメントも長くなってしまいます。今日は十人のお気持ちを紹介する予定でしたが、次の番組のスタッフに怒られてしまいますので七枚目で最後にしたいと思います……」

何が同じ気持ちだとか勝手に強がっていたが、内心そうなのかもしれないと思ってしまった。大学の友人と一緒に住んでいて、その人の事が男として好きで、これじゃまるっきり俺と同じじゃないか。友達になれるかどうかなんて事はどうでもいいが、今のハガキを送った人とは少し話してみたいと思った。
正直、自分のハガキが読まれる事は覚悟していたが、実際に読まれてみると馬鹿みたいに動揺する。航大は黙ったまま黙々と白いハガキを埋めていっているし、ラジオは七枚目のハガキを読み終わってエンディングの挨拶みたいなのを話している。俺は動揺を必死に隠しながらその場に沈黙している。これで動揺しているのを隠しているつもりなのが笑えない。