♪side:航大
買ってきたものを片付け終わり、飲みかけのジンジャーエールを持って部屋に戻ったら翔一は寝落ちていた。翔一のカバンの中には、無造作にさっきのビートルズの雑誌が放り込まれていた。
日が傾き始め、ぼんやりと空がオレンジ色に染まりはじめた。ラジオをつけようとしたが、翔一を起こしてしまいそうだったのでやめた。
やる事もやりたい事も無く、話し相手もいない静かな部屋で一人ポツンとしているのがなんだか嫌になって、少し出かけることにした。
買い物も済ませてきたし、特に行きたいところもない。でも、今だけは何もする事のないこの部屋に居たくなかった。
財布から適当なレシートを取り出して、裏に出かけてくると一言書き置きを残した。煙草を咥え、ライターをカキン、と鳴らす。ヂリっと音を立てて燃えるオレンジの炎が煙草に燃え移って白い煙を上げはじめた。
フィルター近く、根元ギリギリまで吸って、灰皿でもみ消した。口の中に残る煙草独特の苦味みたいなものをぬるくなったジンジャーエールで流して、部屋を出た。
鍵をかけて歩き始めたが、本当に行くあてもない。ただフラフラと駅の方に向かって亀のようなスピードで歩く。
商店街が近くなってきて、歩道の上のアーケードが見え始めた。柱は茶色に錆びきって塗装が剥がれまくったアーケードにくっついているスピーカーから、とんでもなく安っぽい音質で宇多田ヒカルの「First Love」が流れていた。
いつか、誰かとまた、恋に落ちても。なんて、そりゃ曲の歌詞の中で美しい恋愛なんてのはいくらでもあると思う。でも、現実はどうだろう。俺がしている恋なんて美しさなんかとは真逆の、むしろ誰にも言えないようなものだ。世の中にはこんな恋愛もあるんだと、自分がそれを経験するとは思わなかった。というか、俺の気持ちに変愛なんて言葉は似合わないと思う。忘れようとして、忘れられないことばかりで、七海との夜のことでさえ未だにフラッシュバックしてしまう様な俺なんかに誰かをまた好きになる権利があるはずも無い。それなのに、また、好きになってしまった。尋常じゃない自己嫌悪感を押し殺しながら歩き続ける。余計に傷をつつくのはよそう。と思いながらも、モヤモヤした気持ちは収まらない。頭の上に何個もついているスピーカーの音楽も変わる気配がない。
結局駅の東口まで来て、翔一にアビイ・ロードのCDを買っていこうと思った。あんな古いCDがこの辺に売っているかどうかすら不安だが、古本屋のCDコーナーだとか個人経営のレコードショップ辺りにならありそうだ。
古本屋もレコードショップも西口側の商店街にある。階段を昇って、ひとまずは西口に向かった。
買ってきたものを片付け終わり、飲みかけのジンジャーエールを持って部屋に戻ったら翔一は寝落ちていた。翔一のカバンの中には、無造作にさっきのビートルズの雑誌が放り込まれていた。
日が傾き始め、ぼんやりと空がオレンジ色に染まりはじめた。ラジオをつけようとしたが、翔一を起こしてしまいそうだったのでやめた。
やる事もやりたい事も無く、話し相手もいない静かな部屋で一人ポツンとしているのがなんだか嫌になって、少し出かけることにした。
買い物も済ませてきたし、特に行きたいところもない。でも、今だけは何もする事のないこの部屋に居たくなかった。
財布から適当なレシートを取り出して、裏に出かけてくると一言書き置きを残した。煙草を咥え、ライターをカキン、と鳴らす。ヂリっと音を立てて燃えるオレンジの炎が煙草に燃え移って白い煙を上げはじめた。
フィルター近く、根元ギリギリまで吸って、灰皿でもみ消した。口の中に残る煙草独特の苦味みたいなものをぬるくなったジンジャーエールで流して、部屋を出た。
鍵をかけて歩き始めたが、本当に行くあてもない。ただフラフラと駅の方に向かって亀のようなスピードで歩く。
商店街が近くなってきて、歩道の上のアーケードが見え始めた。柱は茶色に錆びきって塗装が剥がれまくったアーケードにくっついているスピーカーから、とんでもなく安っぽい音質で宇多田ヒカルの「First Love」が流れていた。
いつか、誰かとまた、恋に落ちても。なんて、そりゃ曲の歌詞の中で美しい恋愛なんてのはいくらでもあると思う。でも、現実はどうだろう。俺がしている恋なんて美しさなんかとは真逆の、むしろ誰にも言えないようなものだ。世の中にはこんな恋愛もあるんだと、自分がそれを経験するとは思わなかった。というか、俺の気持ちに変愛なんて言葉は似合わないと思う。忘れようとして、忘れられないことばかりで、七海との夜のことでさえ未だにフラッシュバックしてしまう様な俺なんかに誰かをまた好きになる権利があるはずも無い。それなのに、また、好きになってしまった。尋常じゃない自己嫌悪感を押し殺しながら歩き続ける。余計に傷をつつくのはよそう。と思いながらも、モヤモヤした気持ちは収まらない。頭の上に何個もついているスピーカーの音楽も変わる気配がない。
結局駅の東口まで来て、翔一にアビイ・ロードのCDを買っていこうと思った。あんな古いCDがこの辺に売っているかどうかすら不安だが、古本屋のCDコーナーだとか個人経営のレコードショップ辺りにならありそうだ。
古本屋もレコードショップも西口側の商店街にある。階段を昇って、ひとまずは西口に向かった。