♪side:翔一

雪が降って、冷えた手を息で温める。そんな季節が少し寂しく感じられる。真っ白な雪に、霜焼けでほんのり赤くなった手が目立つ。
「翔一さ、お前なんで最近手袋つけてないの?無くした?」
「いや、別に、忘れただけ」
「ん、そっか。手冷やすと体の芯も冷えてくから気をつけろよな」
「あ、おう。ありがと」
それから少しだけの沈黙が俺たち二人の間に横たわった。いつもの駅で別れるまで話すことは無かった。背を向けて、コートの隙間からネクタイを少しだけ緩めた。
「じゃ、翔一。また明日な」
後ろから少し低いいつもの声でそう聞こえる。おう。と、聞こえたか聞こえないかの声で返す。四ツ谷駅から、俺は新宿駅へ、直哉は錦糸町駅へ帰る。満員の総武線の中、すっかり冷たくなった手で自分に触れる。刺すような冷たさが、頬から体温を奪っていく。少しだけ震えた。やっぱり温もりが欲しかった。