♪side:翔一

鍵を開けながら思い返す。この部屋に誰かを呼ぶなんていつぶりだろうか。それも、大事な人なんて。
一日経って役に立たなくなった蓄光ボタン付きの電灯のリモコンを敷きっぱなしの布団の枕元あたりを手探りで探す。
「どうした?入ってきていいぞ」
「あ、あぁ。ありがとう」
「ちょっと電灯のリモコン見当たらなくて、暗いけど大丈夫か?」
「スマホの明かりあるから大丈夫」
「あ。それで探せばいいのか」
「お前本当に現代人かよ」
「うるせぇな、ちょっと疲れ気味なんだよ。あ、あった」
視界が明るくなる。乱雑にめくれた布団に読みかけの雑誌、飲みかけのコーヒーも何もかもがクリスマスの夜のままだった。それが当たり前なのは分かっていた。こうなるなら少しでも片付けておけばよかったと後悔したけど、もう後の祭りだった。
「なんか、意外だな。生活感とかあんまりない部屋を想像してた」
「それ遠回しに散らかってて汚いって言いたいのか?」
「いや、違くてさ。お前のことだからバッチリ掃除もされてるすごい整った部屋だと思ってて。なんか親近感湧いて嬉しい」
「なんだそれ、結局散らかってるって言いたいんじゃねぇか」
「すまんって」
「まぁいいや、ちょっとテーブル散らかってるけどここでいい?」
「いいよ。飲めればどこでも」
「じゃあちょっと先に一服してくるわ」
「あ、なら俺も行くわ」
「あいよ、吸う時はこっちのベランダで頼む」
「分かった」
コンビニで買ったものをテーブルの横に置いて直哉とベランダに出る。少し遠くのネオンサインが太陽のコロナの様にぼやけて見える。目が疲れてる。
ネクタイを緩めてワイシャツのポケットからショートホープの箱を取り出す。いつもより短いタバコをくわえて火をつける。直哉もいつも通り、加熱式の電子タバコの電源ボタンを押す。少しは気が紛れると思っていたのに、このいつまでも懐かしくて悲しい匂いが余計に緊張を誘う。風向きが変わって、赤い灯火の先から出る煙が直哉の方にいってしまえばいいとすら思う。クソみたいな受動喫煙奨励者の完成だ。笑えない。