♪side:直哉

赤いネオンのゲートをくぐった。その瞬間、胸の奥深くから込み上げてきた言葉をそのまま翔一に伝えた。これが世間一般で言う「告白」というやつなんだろう。男から女へ、女から男へ。それが最もありふれた愛の告白。俺にとってはそんなの知ったこっちゃない。
自分が同性愛者であることは薄々分かっていた。それでも、翔一の過去もそういったものも全部含めて目の前にいるこの男のことを、どうして愛してしまったのかなんて分からない。ただ流れ着いた気持ちの先に今があった。きっと今だけは、それで十分だった。
人々の雑踏と喧騒の中に、街のいたるところにあるスピーカーからワムの「ラストクリスマス」が流れている。俺の頭の中は、もはや冷静じゃない。
翔一が俺を思ってくれていたという事実と、考えをほとんど読まれていた事を素直に飲み込めばいいのか喜べばいいのかもよく分からない。この綺麗で猥雑な、どうしようもない街で翔一の隣を歩く。俺の頭の中には、いつの間にか「戦場のメリークリスマス」が流れていた。1983年に見たあの映画をまた劇場で見たくなった。そっと、誰にも聞こえないように「メリークリスマス、ミスターローレンス」と囁いた。
「なんて?」
「え、いや、今の聞こえたのかよ」
「なんか唇動いてたから喋ってんのかと思って」
「いや、別にひとりごと」
「あ、そう?さっきの今で言う一人言ってなんだよ」
「別になんでもいいだろ、気にすんなよ」
「まぁ、そうな。それよりさ、なんで今流す曲がラストクリスマスなのかねぇ」
「知らね」
「そんな死んだ顔で俺の隣歩くなっての。おら、こっち向けよ」
「ん?なに……んっ……」
「まだちょっとケチャップのにおい残ってんな。あとで部屋着いたら歯磨けよ」
「いきなり何すんだ」
「何すんだって、別に、普通に恋人にする感じでお前の唇もらっただけだけど」
「こんな所でする必要なかったじゃねぇか。今の目立ちすぎだろ」
「目立った方がさ、俺らが恋人同士ですよってアピールできるようなもんじゃねぇか」
「……」
「三十過ぎのおっさん二人組がのお互い顔真っ赤で何してんだか」
「お前のせいだろうが」
「悪い悪い。でも、ちゃんと本気だったぜ?」
「なっ……ん。はいはいどうも」
「おい照れんなって。俺も恥ずかしいだろうが」
「うるせぇなもう」
俺達の笑い声だけがこの不夜城を支配している気がした。確証は何も無いけど、今この世界の中心はきっと俺達な気がした。翔一からはいつもと違うタバコの匂いがした。寒さで乾燥した唇は、思っていた以上に柔らかかった。