わたしは布団で頭まですっぽり包み込んで、起きないアピールをする。



「あと五分~」



眠たそうなか細い文句を、喉の奥からしぼり出した。想像以上に声になっていなかった。音程のはっきりしない拙い声色は、寝起きだからだけではないだろう。


お母さんの呆れた声は、聞こえてこない。


現実を認めたくなくて、お母さんの声を待った。

待って、待って、必死に待ちわびて。


お説教だって何だっていいのに、どれだけ待っても返事はなかった。



ねぇ、お願いだよ。

まだ寝かせて。

この夢の続きを見させて。


またわたしの名前を呼んで。

莉子、って。



やはりどうしたって、夢は現実には敵わない。
夢はしょせん夢で終わる。


ささやかで確かな願いは、叶わない。




――ピピピピピッ!!


耳元で鳴り響くけたたましい目覚まし音で、いとも簡単に夢は幕を閉じた。

現実に引き戻され、予想通り寂しさが胸の中を蠢き回る。



”ここ”に、お母さんはいない。