けれど、私が一番目を奪われたのはその女の子の表情だった。

 こっちに来いとでも言いたげに微笑み、こちらを見つめる瞳は太陽の光の加減の問題だろうか──見たことがないような虹色をしていた。見える範囲に親は見当たらず、一人でいるように見える。

 女の子は私から視線を逸らすと、クルリと背を向ける。そして、タッ、タッ、と走り始めた。

「あ。待って!」

 その後をついて行ったのは、ほんの気まぐれだった。
 季節外れの七五三の衣装を着た、とても綺麗な女の子。なぜか話してみたいような気がして、路地をくるりと曲がったその子に続いて私も角を曲がる。

「あれ?」

 ひっそりと静まり返った細い小路で、私はおかしいなと首を傾げる。そこに先ほどの女の子はいなかった。かわりに目に入ったのは、小さな祠とその前に置かれたお賽銭箱。

「神社……かな?」

 もう三ヶ月もこの近くの道を通学していたのに、こんなところに神社があったなんて全然気が付かなかった。
 小路の入り口には赤い鳥居がある。そして、二メートルほど奥まったところに、一メートル四方くらいの小さな祠があった。木製でかなりの年季が入っていそうに見えるけれど、手入れはしっかりとされているようで、その古さは返って厳かな雰囲気を感じさせた。
 鳥居と祠の間、参道脇には小さな石板が立っており、説明書きがしたためられていた。
 
「えっと……、さくら坂神社は宝永元年に建立され、縁結びの神様として永く地域の住民に親しまれ──」

 その石板の文字を目で追ってゆく。どうやら、『さくら坂神社』というのがこの神社の名前で、縁結びの神様のようだ。宝永元年が西暦何年に相当するのかは知らないけれど、凄く歴史がありそうだ。

 もう一度祠に視線を移すと、お賽銭箱と祠の間には未開封のペットボトルのお茶が置かれていた。埃も被っておらず真新しいので、今日お供え物として置かれたものだろう。

「縁結びかぁ」

 ふと、今日の昼間、幸せそうにはにかんだ夏帆ちゃんの笑顔が脳裏に過(よぎ)る。好きな人ができたら、自分もあんなふうに幸せそうに笑うようになるのだろうか。ちょっと、想像がつかない。

 恋は……してみたいような、してみたくないような。