思わず大きな声を上げてしまい、慌てて口を両手で塞ぐ。
 クラスメイト達が何事かとこちらに注目するのを感じ、「あ、ごめん。なんでもないの」と胸の前でヒラヒラと手を振って誤魔化した。

「どういうこと?」

 これは小テストの勉強をしている場合ではない。
 私は夏帆ちゃんに顔を寄せて追求を開始する。

 サッカー部のマネージャーをしている夏帆ちゃんは、入学当時から同じ部の松本聡に片想いをしていた。つい一週間前まで『今日の練習ではお喋りができたよ』なんて、お昼を食べながらきゃっきゃと報告してくれていたのに、本当にいつの間に!?

 私はチラッと侑希のいる男子グループを見た。
 侑希とも仲の良い松本くんは、こちらを見て夏帆ちゃんと目が合うとニヤっと意味ありげに笑った。

 アイコンタクトなんて、なんか本物のカレカノっぽい!
 あ、本物なんだっけ?

「昨日、練習試合の帰りにね、たまたま二人きりになるタイミングがあったから。勇気だして告白したらオッケー貰えた」

 夏帆ちゃんは私の耳に口を寄せて、小さな声で説明する。

「そうなんだ……。凄い! おめでとう!」
「うん。えへへ、ありがとう」

 夏帆ちゃんが照れ臭そうに笑う。

 告白。告白かぁ。『好きです』って好きな人に伝えるってことだよね。

 彼氏どころか好きな人すらいない私にとって、それは未知の世界。

 なんか、すごいなぁ。

 嬉しそうにはにかむ夏帆ちゃんの笑顔はいつも以上に輝いていて、まるで太陽みたいに眩しかった。


 ◇ ◇ ◇

 お互いに部活がない日はいつも夏帆ちゃんと帰るけれど、今日は一人だった。夏帆は晴れて彼氏となった松本くんと一緒に帰るらしい。

 少し図書室で勉強してからの帰り道。
 いつもなら帰宅途中の生徒がちらほらと歩いている駅までの坂道は、今日に限ってなぜだか人っ子一人いない。とぼとぼとその坂道を登っていた私は、ふと視界に映った鮮やかな赤に気付いて足を止めた。

「なんだろう。着物……子供?」

 そこにいたのは、とってもきれいな、着物を着た女の子だった。
 七五三のときに着させてもらった華やかな着物のような衣装を身に纏い、こちらを見て笑っている。赤い生地にはピンク色の花──桜が染め付けてあり、金色の帯は素人目にも豪華な刺繡が全面を覆っていた。