「もう俺、本当に行くからな!」

ふわりと浮いていた思考が勇也くんの声で引き戻される。
どうやら沖田さんとの楽しそうな攻防は終わりを迎えたらしい。


「あ!あと、最後に一つちゅうこくしてやる!」

ビシッと指をこちらに向けた勇也くんは、どこか残念そうな表情で言葉を落とす。


「……結月は女なんだから、自分のこと僕っていうのやめた方がいいぜ。いい大人なんだからさ!」

それだけ告げた勇也くんは、「じゃあな!」と片手を挙げて走り去って行った。

――ひゅうっと肌寒い風が一筋通り過ぎていく。


「……すみません、結月さん」

自分の口から洩れ出た謝罪の言葉に再び内心で苦笑いを浮かべていれば、何かが身体からふっと抜け落ちたような感覚に襲われる。

後ろによろけそうになりながらも何とか踏みとどまって前を見れば、そこには数十分振りに視る沖田さんの姿。私の身体から出てきたみたいだ。