数秒か、数十秒か。
短いようで長く感じる時間が沈黙を支配していた中、私の携帯が着信を知らせる。
慌てて鞄から端末を取り出せば、画面にはアルバイト先の番号が表示されていて。
「っ、あ!」
そういえば今日は後輩にシフトを変わって欲しいと頼まれていたんだった。
すっかり忘れていた。
今までバイト無欠勤無遅刻だった私は、初めての遅刻にサーッと血の気が引いていく心地になる。
バイト先に折り返しの連絡を入れつつ急いで向かおうと足を動かすが、青年との会話が中途半端に終わっていたことに気付いて足を止める。
「あ、あの、私行きますね!それでは」
未だに俯いている青年に声を掛けて一礼する。
それでも顔を上げようとしない青年には懸念も抱くが、一刻も早くバイト先へ向かいたい私は後ろ髪を引かれる思いで青年に背を向けた。