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八木邸の前で佇むのは、一人の青年。

誠の旗の前に立ち止まっていれば観光客の邪魔になりそうなものだが、誰もが彼の存在に気付くことなく通り過ぎて行く。


何故なら、彼は既にこの世の者ではない――幽霊だからだ。


沖田総司は既に何時間も、この場所で一人立ち竦んでいた。
考えるのは新選組のこと、そして――立花結月という、一人の女性のこと。

胸を占めるこの思いが何なのか、総司だってとっくに気付いていた。
彼女に対して感じる、温かな気持ち。

苦しいほどに焦がれる、この想いの正体――彼女のことが、愛しいと思う。


「僕は……結月さんが、好きだ」

ぽつり、呟けば、その言葉は総司の胸の内にスッと溶けていって、切ない響きをもたらす。


だけど――この想いは、伝えちゃいけない。
いつか居なくなってしまう僕が伝えていいはずがない。

――――結月さんを、悲しませてしまうだけだ。