「あの!トシ先輩は……前世を信じますか?」
「っ、はあ?お前……急に何言ってんだ」
私の問い掛けに振り向き面食らった表情をしたかと思えば、その顔には直ぐに呆れの色が映し出される。
「前世があるかどうかなんて分かるわけねーだろ。覚えてもねーしな」
返ってきた言葉は至極当然のものだろう。前世を覚えている人間なんて早々いるわけがない。分かってはいたけれど……落胆の気持ちが胸を占める。
「そうですよね……すみません、突然変なこと聞いて」
訝し気な表情のトシ先輩に取り繕った笑みで返して誤魔化した。
釈然としない様子を隠そうとしないトシ先輩に、「呼び止めちゃってすみません。私も次の講義が入っているので行きますね」と軽く頭を下げる。
そのまま背を向ければ、「……ただまあ、」とトシ先輩の呟きが耳に届いた。
「前世があるかなんて分からねーが――信じてみたいとは思うけどな。前世ってやつ」
反射的に振り向けば、トシ先輩はもう背を向けて歩き出していた。
――ひらひらと手を振るトシ先輩から目が離せなくて、私は見えなくなるまでその背中をずっと見つめていた。