物思いに耽りながら向かっていれば、あっという間に大学に着いた。
次の講義が行われる教室を確認して足を向けようとすれば、背後から大きな掌が頭に乗せられる。


「……なんつー顔してんだよ」
「……トシ先輩」

眉根を寄せて私を見下ろすトシ先輩は、一つ溜息を落とすと「ついてこい」と私の腕を掴んで歩き出した。抵抗する気力もない私は、ただ黙って後を付いて行く。



人気の少ない廊下まで来ると、トシ先輩は私に向かい合う形で立ち止まった。

数秒の沈黙の後、一文字に結ばれていた形の良い口がゆっくりと開かれる。


「――何かあったのか?」


何時もよりずっと優しい声色で告げられた、私を心配しての言葉。
真っ直ぐな瞳で射抜かれると、私の中で燻っているこの思い全てを吐き出してしまいたくなる。