――いつまでもここに居ても仕方がない。

そう思った私は、未練がましくもう一度だけ周囲に視線を巡らせてから、帰宅するためにゆっくりと歩みを進める。


「っ、――」

……今、誰かの声が聞こえたような。

誰かに呼び止められたような、そんな気持ちになった私は足を止めて振り返る。
しかし背後には誰の姿も見えない。


――空耳、かな。

少しの疑問を感じながらも、今度は振り返ることなく、真っ直ぐに歩みを進めた。