「はあ、良かった……。結月さんを怒らせてしまったかと思って、凄く焦りました」
「ふふっ、こんなことで怒ったりしませんよ。でも沖田さんってば、最後の方なんて私の身体に乗り移っていること、忘れてましたよね。普通に自分の名前を名乗ってましたし」
「うっ…それは、忘れて頂けたら嬉しいです」

恥ずかしそうに頬を掻く沖田さんは、「あ、そういえば」と話を逸らすかのように声を漏らす。


「何ですか?」
「この竹刀、返し忘れていました。うーん、取り敢えず道場の入口の所に置いてきますね」

いつの間にか沖田さんの手に握られていた竹刀を掲げて見せると、入口の所にそっと立てかけて戻ってくる。

体育館では変わらず竹刀で打ち合う音や気合の入った声が響き渡っているので、誰かが気付いて回収してくれるだろう。