「人生を変える出会いって、お前は信じる?」
赤ら顔でそうぼやいたユージさんの顔を思い出す。酒なんて飲めないくせに、珍しく飲みに行こうなんて言うからおかしいと思っていた。まさかアメリカ行きをそこで聞くとは思ってもいなかったけど。
「運命の出会いでも果たしました?」
目の前のコロッケを一口ほうりこんで俺は聞く。するとユージさんは片手で顔をおさえて、うーんとうなる。これは酔っている。しかも相当に。
「運命って言えば、運命だよな……」
この人がそんな話をしているところなんて見たことがなかったから純粋に興味もわいて、酔っているのをいいことに色々と聞きだした。こんなところでパーソナリティとしての仕事が役立つとは、なんてちょっとおもしろがっていたのもある。あとは、俺の中での直感を確かめたいという思いもあった。
あいつは何も言わなかったし、ユージさんも知り合いかと聞いたときに違うと言ったけれど、俺には確信があった。この人とあいつの間に、なにかがあると。
饒舌になったユージさんの口から流れたことは、まるでドラマの物語のようだった。このふたりは、運命で結ばれているんだとそう思ったし、こんなことが現実で起きるのかと感動もした。けれど、ユージさんは、アメリカに行くことを決意していた。
俺はただ話を聞くことしか出来ない。あとは、この人の代わりに彼女を見守ることくらいしか──。
「なあ、頼むね。あの子さ、すっげえいい子なんだ。俺の人生を変えてくれた、特別な存在なんだ」
だからさ──
「俺がいなくなったあと、タピちゃんのこと、どうか頼むよ」
そう言って俺にちいさなつむじを見せて、そのままユージさんは眠りの中へと吸い込まれていく。
──こんなのって切なすぎる。だけど俺は、何もできない。夢に向かって進むこの人を、同じように夢を掴もうと努力するあいつを、ただただ見守ることしか。
すうすうと赤ら顔で寝息をたてるユージさんを見ながら祈らずにはいられない。
──二人の未来が、どうか明るくありますように。