「えーっと……。どーも、DJユージです。えー、ミッドナイトスター特別編です……なんて。そんな大げさなもんじゃないんだけど。これは、俺のこの場所での最後の番組。いや、番組っていうか、このスタジオを私用に使ってるわけだから思いっきり職権乱用なんだけど。まあ最後だし、許してくれるだろう!
 えー、リスナーはタピちゃんだけの番組です。なんだか変な感じがするね。なんとなく恥ずかしいからいつもの番組みたいな感じで話していこうかな。って言っても、俺の方からメッセージを伝えるっていうのは初めてのことで緊張するな。いつもタピちゃんはこんな気持ちでメッセージを送ってきてくれてたのかな。きみがこれを聴く日が、来るかもしれないし、来ないかもしれない。だけど、きみの夢が叶うことを願って、俺からの言葉を送らせてもらいたい。いつもメッセージをもらうばかりだったから。

 今のタピちゃんは、どんな毎日を送っているんだろう。DJとしての毎日は充実している?壁にぶち当たったりしていない?毎日たくさん笑って、ラジオの世界を楽しんでいる?ラジオって、すごい世界だよね。多分タピちゃんもそれに気付いてくれたから、今の道にたどり着いたのだと思うけど、ここは本当に特別で、そして特殊な世界だと思うんだ。声だけ、音だけ、文字だけの世界。それなのに、リスナーの瞼の裏には、その限られたものから与えられた世界が景色となって浮かぶんだから。
 だけどそれはリスナーに限ったことじゃない、パーソナリティだって同じだよね。

 俺もいつもそうだった。みんなからメッセージをもらう時。みんなの顔なんて、知りもしないのにさ。好きな女の子のために試行錯誤するキラキラさんの姿に本気で応援したり、コタツから出ないっていうキツネ太郎さんは万年コタツ太郎に改名した方がいいんじゃないのかとつっこみたくなったり、鍋を持つ犬見沢さんが浮かんだり。
 ──そして、笑ったり、怒ったり、迷ったり、泣いたりしているタピちゃんも、何度も何度も俺の頭の中には現れた。そして、強い決意を持ったきみが頭の中で俺に語りかけたんだ。「DJユージさんは今の自分に満足ですか?」ってね。

 それから、もうひとりの女の子のことも、俺は話さないといけないね。仕事前に必ず寄るタピオカスタンドで働く女の子のこと。
 ちょっと生意気そうで、おしゃべりで、あっけらかんとした雰囲気の女の子。客が待っているのに、平気で常連とぺちゃくちゃ話してる女の子。俺が不機嫌な空気を出してるのに、それを微塵も感じずあれやこれやと質問してくる女の子。苦手なタイプだなと思ったことをここで白状しておく。だけど、その印象はどんどん変わって行った。頭の回転が速くて、記憶力もよくて、話してみればとてもおもしろい子だと知っていった。それから俺は途中で気付いたよ。その子が、ドリンクの味をおいしくしてくれていたってことに。
 ある時スタンドに行ったら違う子が働いていてね。同じ抹茶ミルクタピオカを頼んだのに、味が全然違ったんだ。そのときにさ、気付いた。ああ、あの子は俺においしいドリンクを特別に作ってくれているんだなって。そして、そのことを言わない彼女に対して、すごく、なんて言うのかな。うーんと……まああれだ……特別な気持ちになった…ワケデアリマス……。

 とにかくまあそんなこんなで!俺の中でも印象深かったふたりの女の子が、実は同一人物だと分かったときは、本当に驚いた。あのときは生放送中だったから、取り乱すわけにはいかなかったし、すぐにDJとしての自分を取り戻してなんとか無事に放送を終えたけど、本当にすっげえびっくりしたんだよ。タピちゃんからの質問が来たとき、心臓飛び出るかと思った、まじで。
 だけど正直、運命なのかななんて思ったりもしたんだ。運命ってさ、何も恋愛だけのことじゃないと思うんだ。人と人の縁。人と動物との縁。人とモノとの縁。人と場所との縁。色々なものに当てはめることが出来ると思う。俺が今、やっと自分のために飛び立つことが出来たのは、間違いなくタピちゃんのおかげです。本当にありがとう。

 タピちゃんは、今どんな気持ちでこれを聴いているんだろう。DJユージくどくど語ってるななんて鼻で笑ってるかもしれないね。だけどもし──もし、困難な壁にぶち当たっているとしたらひとつだけ覚えていてほしい。

 変化を、恐れるな。

 変わらないことは、心地よくて気が楽だと思う。だけど、変化を恐れたりしないでほしい。自分が変われば世界も変わっていく。きっとメディアに出るようになって、タピちゃんを取り巻く環境は良くも悪くも変化して行ってるんじゃないかな。それに戸惑い、傷ついたりしているかもしれない。だけど、変化することは新しい世界に触れるチャンスだってこと、忘れないでほしいんだ。
 全てのことには意味がある。つらいことも、苦しいことも、ちゃんと意味がある。だけどそれを、意味のある経験にするか、それともただの苦しみにするかは、タピちゃん次第なんだよ。
 タピちゃんがいま進んでいる道は、夢なんかじゃない。現実だ。そして俺が進んでいる道も夢なんかじゃない。夢を現実に変える勇気をくれたのは、タピちゃんなんだ。もし大きな迷いがあって、どこを向いたらいいのか分からなくなった時は、自分自身と向き合ってみてほしい。

 何をするのがすき?
 何をしている時が楽しい?

 就活の時と同じ自問自答を、もう一度してみたらいい。その道がもしかしたらパーソナリティかもしれないし、違う道かもしれない。俺は、タピちゃんがパーソナリティにならなくたって構わないんだ。タピちゃんがタピちゃんらしく、自分の進みたい道を進めていれば、それでいい。
 だから、堂々と、胸を張って。迷いながらでもいいから、この現実世界を進んでいってほしいと思います。


 ──なんて、説教くさくひとりで語っちゃって恥ずかしいな俺……。パーソナリティは聞く仕事だ、なんて散々言っておきながら、今日の俺は本当一方的に、しかもかなりの時間話し続けているね。でもそれだけ、タピちゃんには伝えたいことがあったんだ。

 嘘をついていてごめん。大きな戸惑いを与えてしまってごめん。黙ってアメリカに行ってごめん。パーソナリティのくせに、リスナーであるタピちゃんを特別に思ってごめん。

 あー……あと、最後にひとつだけ。いや、どうしようかな、やっぱやめるか……いや、うん、いやー……あー……くそ!まあいいや!言っておく!

 タピちゃん俺はね
 ──君の声が、とてもすきだよ。