それからの日々、わたしはタピオカスタンドのバイトに明け暮れた。週に何日かはスタジオに行って、発声の練習をかねてマイクの前で話してもみた。それでも相変わらず、マイクがオンになった途端、私の声は使い物にならないただの息になる。
 そんな毎日が続いていた。もうこのまま、パーソナリティになるのは無理なのかもしれない。周りを見れば、新しいパーソナリティの子達が少しずつ、けれど確実に、番組に出始めている。私はそれを、焦るでもなく他人事のように眺めていた。
 声が出ないなんて、致命的だ。これも神様からの啓示なのかもしれない。別の道にすすめというお告げ。
 ラジオもなんとなく聴きたくなくて、テレビばかり見ていた。それでも、月曜の深夜になると癖でラジオをつけてしまう。

「スポーツオールナイトの時間です!みなさん今日もスポってるー!?」

 的外れなテンションの声が響いて慌ててそれを消す。ああそうだ。もうユージさんはいないのだった。そうやってラジオを消した途端、部屋は静寂で包まれる。宇宙空間にひとり放り出されたみたい。酸素もなくて、重力もなくて、何もなくて──。


 神様。もし本当にこれがお告げなのだとしたら、どうかもう一度だけチャンスを私にもらえませんか。やっぱり私は、まだ諦めたくないのです。夢を諦めたくないのです。私にとって、声は命と同じなんです。どうかこの声を、命を、持っていかないでもらえませんか。
 そんな声は、もちろんどこにも届かない。だからこそ私は今でも、マイクの前で話すことが出来ないのだ。

 ユージさんは、どうしているのだろう。番組から姿を消した私のことを、どう思っているのだろう。ユージさんに会いたい、声が聞きたい、存在を感じたい。

 ユージさん、私はどうしたらいいのでしょうか。

 何も流れてこないスピーカーをじっと見つめながら、私は彼の名前を呼んだ。