タピ子にとってあの人が大きな存在で、憧れであるということは俺もディレクターも分かっていた。タピ子と仕事をしたことがある人ならばきっと分かる。彼女はユージさんに憧れてパーソナリティになったのだ。それでも、それはただの憧れであって、目指すべきキラキラとした光であって、それ以上でもそれ以下でもないと思っていた。ユージさんがアメリカに行くと決まったからと言って、彼女が動揺したりするわけがないと、揺れる心に言い聞かせていたのだ。それなのに、あの人の不在という出来事は、彼女に大きな影響を及ぼした。それにひどく、俺は腹が立ったのだと思う。だから感情のままに言葉をぶつけた。言わなくていいことまでも。なんというエゴだろうか。なんという無様な姿だ。こんなの、俺らしくない。
 
 そうやって冷静になったところで、はっと気が付いたのだ。番組終了と共にフィルターをかけているパソコンの設定を、いつもの癖でオフにしたこと。その後に、主電源を切らずにスタジオを出てきたこと。もしこのタイミングでメッセージが送られてきたら、ブース内のパソコンに表示されてしまうということに。

 血の気の引く思いでスタジオへと戻れば、そこには何かに憑りつかれたように画面をスクロールするタピ子の姿があった。

「こんなの、見るな」

 両手で彼女の視界を遮れば、すぐに指先から滴が溢れていくことに気付く。次いで苦しそうな嗚咽が漏れだす。

 ごめん。
 ごめん。
 本当に、ごめん。

 お前のことを守りたいと本当に思っているんだ。お前がマイクの前で生き生きと話す姿にいつも光を感じるんだ。だからその笑顔が消えないようにって、お前の夢が叶うようにって、俺はそうやって、支えていきたいとそう思うのに。

 いらない言葉を投げつけて
 いらない言葉を受け取って
 見なくていい言葉を瞳に映して
 言葉のナイフで傷を作って

 俺がそばにいるのにごめん
 俺がそばにいたのにごめん

 傷つけて、本当にごめん。

 あの人を失って、方向が分からなくなってしまったきみのために、俺は何が、出来るだろうか。きみの光になれるだろうか。