言いすぎた、と冷静になった時に気が付いた。パソコンのスイッチを切らずにスタジオを飛び出してきてしまったということに。
 ミキサー側のパソコンとパーソナリティの正面に置かれているパソコンは繋がっている。メッセージなどは先に俺たちが見るパソコンに表示され、選択したものだけがパーソナリティ側に表示されるようになっていた。それはパーソナリティたちが知らない、ADの仕事のひとつだった。
 番組に届くメッセージというのは、まともでポジティブなものだけではない。下品な言葉であったり、パーソナリティやゲストを誹謗中傷する内容であったり、人間というのは匿名ならばこんなにも闇の部分を公にぶつけてくるのかと眉をひそめたくなるような言葉たちを俺はいくつも見てきた。そして、ひとつ残らず潰してきた。生放送中、万が一そういったものたちがパーソナリティの目に入ったらどうなるか。もちろん彼らはプロだから、表には出さないかもしれない。だけどみんな生きている人間だ。そういう言葉たちによって、傷つかないひともいれば、傷ついてしまうひともいる。
 ADの仕事とは多岐にわたるというのは前も言ったが、それは業務的な部分だけではない。すべては“番組”のため。“番組”が無事に成立するように、そこに関わる全てのことに気を配るのがこの仕事だった。

 いつも冷静なのが俺だったはずだ。それなのに、つい頭に血が上って、言わなくていい言葉まで投げつけた。俺が言わなくても大変な失敗をしたことを彼女は自覚していたはずだし、大きく落ち込んだだろう。反省をして次への力に変えることが出来ただろう。それなのにどうしてあんな言葉を投げつけてしまったのか。
 遊びじゃない、仕事だ。そんなの、あいつだって分かっている。みんなの本気がかかっている。そんなことだって百も承知だろう。社会人失格だなんて、どうして俺は──。その答えは明白だ。俺は、嫉妬していたのだ。